そして、たどり着いた場所 その4
「うん。いいよー。
叶えたい願いはなにかあるかの~?」
話しかけた神様は、ニコニコと応えてくれる。
「いやっ、願いっていうか何ていうのか、その、俺の……、俺の話を少しだけ聞いて欲しいんです」
てっきり俺が何かしらの願望を口にすると思ってた幼児姿の神様は、その意外な提案に表情をキョトンとさせた。
「俺、この異世界に来てからというもの、死ぬほど痛い思いをしてきたし苦しんでばかりで何でこんな目に合わなくちゃならないんだって毎日のように思っていました。
『何で俺だけがっ?! 何か悪いことでもしたのかよっ?!』
って」
そこで、ふと、前に座る恵ノ神様を見ると、今にも目から落ちそうな涙目で体をブルブルと震わせていた。
「すすす……、す、すまぬのじゃ!
わ、わし……、わし、また悪ふざけが、ゆっ、行き過ぎて……(涙)」
「あわわわ、すみません(汗)。
決して神様を責めたい訳ではないんですよ。
ただ、そう思ってた時もあったってことだけの話で、今はそんなの考えてません。
というか、そんな恨みがましいことを考えてる余裕がなくなってしまったんです。
毎日、この世界の変化が激しすぎて、兎に角、今を生きることに必死で。
でも、そんな時にふと思ったんです。
あれ? 俺って、こんなに一生懸命に生きることができたんだなって」
恵ノ神様は、溢れた涙を手でぬぐって泣くのを止め、どういう事なのかと次の言葉を待った。
「実を言うと俺、前の世界ではまあまあ上手く立ち回って、社会的にはそんなに悪くない生活を送ってました。ブラックではないそれなりの企業に就職して、それなりの役職について、それなりの給料を貰って……。
毎日、明日がくることなんて当たり前だし、明日も明後日も同じことをして生活してゆくし、それが平和で一番なんだと思ってたんです。
だから、朝、目覚めて顔を洗って会社に行っての繰り返しにも何も思わなかった。
ですけど、今、この異世界で朝に目が覚めると違うんです。
『やったぜ! また朝が迎えられて生き延びてやったぜっ!!!』
って嬉しく思ってしまうんです」
「前の平和な現実世界よりもこの過酷な異世界の方が精神的に充実してるってこと?」
「そうですね。そうかもしれません。
異世界に来た今からすると、前の現実世界の俺は死にながら生きていた、まるで心のないゾンビのような日常だったように感じます」
「じゃあ、今のおぬしに叶えたい願いがあるとすると?」
「はいっ! 異世界に戻りたいですっ!!!」
「また、苦しい思いして未来に希望を持てないとしても?」
「異世界の今を命がけでも、生きてみたいんですっ!!!」
俺の意思を聞き終えると恵ノ神様は少しだけ俯いて、何かを考えてる様子だった。




