九十六服目 白き終焉へ(4)
カノア・クロードの落とした煙草に、同じく落ちていたマッチで点火し、吸った瞬間……まず初めに感じたのは、まるで自然豊かな土地の中に建つ、古き良き日本家屋の縁側にいるかのような心地良さだった。
上條璃奈も経験した、あの清々しく、そしてポカポカと暖かい感覚だ。
煙草に対して忌避感を持っていたが故に、今の今までなるべく関わらないようにしていた霧彦も、それをようやくマトモに経験した。
だがその感覚を味わえたのは、ほんの数秒だけ。
心地良いという感想を心中で出す暇もなく、別の感覚が彼に襲い掛かる。
体の中から、力が溢れ出す。
それは今までの戦いの疲労をすぐに消失させるどころか……すぐにでも動き回りたいほどの、有り余る氣力と体力を霧彦に与えた。
さらには、頭の中がスッキリし……その直後、そのスッキリした頭を補完しようとするかのように、霧彦が知らない様々な情報が流れ込んできた。
「ッ!?」
直後、頭痛が起こる。
普通の人間の脳では扱い切れない膨大な情報が、頭の中に流れ込んだ事によって起きた頭痛。スーパーコンピューターでなければ処理ができないほどの情報量を、旧型のパソコンで処理をしようとするかのような無茶を、彼の脳がさせられているせいで起きた頭痛だ。
しかし霧彦は、それでも喫煙をやめなかった。
いやそれどころか、そんな頭痛に苦しめられながらも……悟りを得た。
「…………ああ……そうか」
そして、その悟りを得てから……数秒後。
煙草を口から離し、彼はそれを足元に置いた。
まるで、もう煙草は必要ないと言わんばかりに。
「…………全部……解った……」
そして彼は、改めて……今まさに須藤に追撃をしようとしていたメイサと向かい合った。
「この、超古代アメリカから始まった因縁の……全てをッ」
※
「ま、さか……そんなっ」
メイサの目に、悟りを得た霧彦が映った。
だがその目に映る彼は、いつもの彼とは違っていた。
煙術師は煙草の力を用いて、己を強化できる。
その情報は、不完全なる煙草の売人のマスターから教えられてはいた。
しかしその双眸に映る霧彦は、その強化とはまるで異なる変化を遂げていた。
まず目に留まるのは、肌の色の変化だ。
近年、薄橙色と呼称するよう定められた、日本人を始めとする人種特有の色が、まるで西ユーラシア人のような白色へと。
両目も変化を遂げていた。
日本では珍しくない茶系の目から、青や緑、茶色などの多くの色が絶妙に混じり合った、まるで宇宙から見た地球のような色の目――アースアイへと。
さらには、その存在感。
全身から発せられている、白色の清浄な氣の影響もあるだろうか。
今の霧彦には……まるで近付く事さえも恐れ多い、神聖なる存在のような圧倒的な存在感があった。
「マスターが、言っていたのは……本当の、事……だったの……ッ!?」
そしてそんな霧彦を前にして、メイサは思わず、声を震わせて呟く。
さらには、霧彦の存在感にアテられたのだろうか。まるで糸が切れた人形のようにその場にへたり込んだ。
明らかに、その様子からして。
彼女は霧彦の今の状態の事を知っているようだった。
いや、違う。
霧彦の今の状態の事を知っているのは、彼女だけではない。
「…………ま、さか……風紀、委員……が……?」
メイサによってズタボロにされ、床に倒れているカノアも。
打撃によって腫れてしまい、うまく開かなくなった目蓋の隙間から、かろうじて霧彦を見るなり……驚愕のあまり、そう口にした。
目覚めよ、その魂!!




