七服目 教室脱出
一時間目の授業の最中。
突如として隣のクラスより、机や椅子がぶつかり合う音。そしてガラスが割れる音が轟いた。
「な、なんでぃすかぁ!? まさかの学級崩壊なんでぃすかぁ!?」
二年B組で数学を教えていた崇島丹治。生徒からはミスター・タンジェントなどと呼ばれ親しまれている先生が、聞こえてきた音に狼狽する。
「ッ!? 急に気配が……?」
一方でカノアは、彼とは違い、音以外の変化も察知していた。
それも、机や椅子、ガラスが破壊されるような音が聞こえる数秒前に。
元々早朝の時点で違和感を覚えていたのだ。誰よりも警戒していたおかげで、誰よりも早くその変化に気づけたのである。
しかし彼女はうっかりしていた。
その変化の原因を調査するために、どう言い訳して廊下に出るかを、一切考えていなかった。そして言い訳を考えるのを忘れていた間に……事は起きてしまった。
こうなっては、もう四の五の言ってはいられない。
どんな恥を晒してでも、一刻も早く廊下に出て……適材適所な人物が対処をしなければ被害は大きくなる。
「むぅ!! せ、先生!!」
カノアは顔を赤くしながら勢いよく挙手した。こういう時は、勢いで押しきるに限ると判断したためだ。丹治は突然の生徒の挙手にギョッとしたものの「な、なんでぃすかぁ?」と訊ねた。
しかしここで、カノアは黙り込む。
ここから先の言い訳をまったく考えていなかった。
だが早くせねば手遅れになる、と彼女は心の中で自分に鞭打った。早く言い訳を考えようと頭を無理に回転させる。焦るあまり、全身から滝汗が吹き出す。表情が引きつる。手足の感覚がなくなりかけ……とそこまで至った時、彼女は思い出す。
居候先の主人たる一美に教わった、この国における淑女の作法を。
――これじゃ!!
カノアは、まるで電流が全身を駆け巡ったかの如き衝撃を覚えた。
この方法こそ、このような切羽詰まった状況で必要ではないか……と。
そして、なぜ今までこの方法を忘れていたんじゃワシ、と思いながら……彼女は叫ぶ!!
「先生!! ちょっとお茶をつみに行ってくるのじゃ!!」
「水筒忘れたんでぃすかぁ!?」
しかし彼女は、間違って覚えていた!!
そして丹治も丹治でとんちんかんなツッコミをしてしまったため、一部の生徒は思わず「ちょ、そこからか!?」とさらなるツッコミを入れた。
「おい、それを言うならお花じゃ……っていねぇ!?」
そんな中、同じ女子であるが故に、璃奈はすぐにカノアに間違いを指摘したが、すでに彼女は走り去った後だった。
「おい、隣で何が起こっているか分からないっていうのに廊下に出るか普通!?」
しかし彼女の幼馴染である真面目人間は違った。
彼は冷静に事態の流れを見極め、本来であれば先生と生徒全員ですべきであったツッコミを返す。
遅れて生徒達……どころか丹治も、彼の言葉にハッとした。
言われてみればそうだ。もしかすると学級崩壊ではなく外部からの侵入者が事件を起こした可能性もあるのだ。
このままじゃカノアが危ない。
数学担当教師・丹治と、二年B組の生徒全員が意見を一致させる。
しかしその前に、霧彦は動いていた。
彼は競歩の選手と同じ早歩きで……カノアを追い廊下へと飛び出す。
「いやこんな時までマジメかッ!?」
璃奈はすぐさま幼馴染にツッコんだ。
事が起きた教室からだと、思ったの?




