七十七服目 Play Back(23)
「もしもウチの弟子との試合で全力を尽くしてくれたのならば……それと、最高の弁護士を付けてくれるんなら、自首しても構わねぇよ」
「ッ!? し、師匠! いったい何を!?」
私の混乱は最高潮に達した。
なんで師は、そんな約束を!?
本気を出すくらい、誰にだってできるんじゃないのか!?
弁護士云々についてはさすがに無茶かもしれないけど。本気を出す事についてはさすがに緩過ぎな約束じゃ……?
「…………分かった」
しかし目の前の少年は、なぜか……覆面なので細かい事は分からないが、目元を見る限り、先ほどよりも真剣な表情になっている…………気がした。
なぜ、わざわざ力む必要があるのか。
ちょっと謎だが、少なくとも私が立ち上がる隙はあったので素直に立ち上がる。
そして改めて立ち合い、次にどう攻めるべきかを考える。
修行の合間に、師から……そのさらに師から教えられたという、日本固有の武術に関する情報を、ある程度は教えられている。
古くは、鎧武者との戦闘用に編み出された技――柔術。
それを基にした、様々な格闘技が日本には存在するという。
そして相手が使うのは、おそらくその中の、相手の力を利用し相手の重心を崩す技――合気道。
普通に立ち向かっては、また転がされるだけ。
慎重に進んで、相手の力の流れを読んだ上で仕掛けないとやられる。
ジリジリジリと、ゆっくり相手の制空圏に足を踏み入れる。
まだ相手は仕掛けてこない。どっちかと言えばカウンター系の技である合気道だからこそか。ならば私が相手に触れた時こそが運命の分かれ道か。
私の技が先に効果が出るか。
それとも相手の技の効果が早いか。
私はギリギリまで近付き、超至近距離から拳を放とうとして……読まれてた!! 相手が私の手を掴むと、またしても天地が反転した。だけど諦めない。私はすぐに立ち上がり、また制空圏に踏み込む。今度はゆっくり体当たりし、重心を崩そうとして……またもや天地が反転する。
そして、その最中……ふと気付いてしまう。
私は何度も何度も球形の金網の下部に叩き付けられたハズ。
なのに頭も背中もあまり痛くない。それに、私の予感が正しければ……。
それを確かめるために、私は賭けに出た。
もう一度、制空圏に踏み込み拳を放ち……天地が反転。
――ここだ!!
私は天地が反転する最中に、相手の足首を掴み……私が寝転がされる勢いに自分の力を加えて、相手の重心を崩す!!
まさかの奇襲に、相手は驚愕し……そのまま倒れた。
そしてその隙を、私は絶対に見逃さない。このまま寝技に持ち込み……極める!
「カラーチョークゥゥゥゥッッッッ!!!!」
別名、送り襟絞め。
柔道でも使われる極め技の一つ。
相手の襟を利用した首絞め技。
頸動脈や気管を圧迫して相手を落とす技。
これを極められてギブアップをしないヤツはいない。
そして、私相手に手加減したのか、最初は本気で私の重心を崩しながらも、金網に衝突する寸前に急に力を緩めた甘ちゃん相手ならば、たぶん効果はテキメン!!
しかし、相手は……それでも金網を叩こうとはしなかった。
それどころか、その両手を、私の手を外そうというのか、首元に持っていきながらも……なんと私が首を極めたまま立ち上がった!?
ば、馬鹿な!?
なんで極められたまま立ち上がれるんだ!?
まさか、私の極め技が効いていないとでも言うのか!?
「そこまで!!」
するとその時、審判が私に向けて……英語で声をかけた。
いったい何の事か分からない私は、頭に疑問符を浮かべたが、すぐに師が「おいメイサ、もう試合終了だ。お前の勝ちだ」と言ってくれたおかげで、状況を察する事ができた。
どうやら相手は、立ち上がりながらも……そのまま気絶していたようだ。




