七十二服目 Play Back(18)
子供同士の殴り合いを見てて気分が悪くなって、それで父様達に断りを入れて、お花を摘みに行って、それからゆっくりと父様達のいる部屋へと戻ろうとした……その時だった。
アタシがいるトイレの個室の一つから、ドカッと音がした。
もしかして、用を足していた人が、転倒したのかなと思ったけど……呻き声すらしない。さすがにおかしいとアタシは思った。
だから、声をかけた。
だけど返答はなかった。
音がしたのに、返事がないなんて……明らかにおかしい。
そう思うと不安になって、もしかして人が死んでるんじゃと思って……試しに、トイレの下部のドアの隙間から中を覗き込んで、人がいる事を知って……アタシは慌てた。
もしもアタシの予想通り、人が死んでいたら……いや、死んでいないまでも危険な状態だとしたら。そう思って、アタシは後先を考えず。ドアの下部を破壊した。
なぜか異様に力があるアタシだからこそできる力技だ。
そして破壊したドアの下部から室内を覗き込めば、そこにいたのは、先ほど見た試合の、道着の子だった。顔色が悪い。それに両腕が赤くなった上で腫れている。さすがに危険な状態だと思ったアタシは、すぐにその子を背負って、トイレを飛び出した。
※
「メイサ、どうした!?」
異様に怪力な、私と同じ東洋人だと思われる少女と一緒にトイレを出た後、私と同じく用を足してたのか、トイレから出てきたところだった師に呼び止められた。
「ッ!? 凄い熱じゃないか。まさかあの中国人の解毒剤の副作用か!?」
師は苦々しい顔をしながら言った。
私の心配をしているのもそうだけど……おそらく、ゲスト出演した私の試合を、これ以上この大会の主催者に見せられないかもしれない悔しさもあるんだろう。
そして師は、すぐに真顔に戻ると「ウチの弟子の異変に気付いてくれて、どうもありがとう。おかげで早い内から対処ができそうだよ」と、私を助けてくれた少女に礼を言ってから、私をお姫様抱っこして、救護室へと走り出した。
その間に、師の肩越しに、もう一度、私を助けてくれた少女を見た。
彼女は私が助かるかもしれないと知って嬉しいのか、安堵の表情をしていた。
まだこの時は名前すら知らない、私の命の恩人のその顔を……私はきっと、一生忘れられないだろう。
そして、もしもまた会える事があるのならば。
その時は、ちゃんとお礼を言いたいと……私は心から思った。
※
「HAHAHA! お嬢さんも、なかなかの怪力みたいだね」
「お、お恥ずかしい限りです」
トイレから戻ってきたアタシを見るなり、スコーピオという人が爆笑をした。
まるで、先ほどの出来事を見たかのような物言いだ。もしかして監視カメラとかが近くにあったのだろうか。
とにかくそれを聞くなり、父様はアタシを睨み付けた。
娘が怪力だと知られて恥ずかしいのだろう。トイレのドアを壊した事への申し訳なさもあるんだろう。だけど人ひとりが死にかけていたかもしれない。
だからアタシは、今回ばかりは悪い事をしたとは思わない。
たとえ父様から、後でどんな折檻を受けたとしてもだ。




