六十九服目 Play Back(15)
……アレだ。
アレによく似ている。
草原や森林の中を走っていて、いつの間にやら、草や枝で皮膚が引っかかれて、裂傷が走っている……あの感じに。
師とのトレーニングの場であった森の中で、何度もそんな目に遭って、さらには運悪く皮膚が腫れるような目にも遭った事があるから、こういう痛みは、嫌というほど今の体には刻み込まれている。
だから、今さら慌てはしない。
この程度の痛みは、熱さは慣れっこだ。
さすがに後で、こいつから解毒剤を強奪しなきゃだけど……それまではなんとか耐えられるッッッッ!!!!
私はすぐに相手に肉薄した。
相手は驚いたのか一瞬目を見開いたが、すぐに応戦してくる。
「おやおや、毒による痛みと熱さのせいで冷静さを失いましたか!? それとも、言葉が分からないからこそ、死の危険性を考え賭けに出たのですか!? どっちにしろ無駄な足搔きとしか思えませんわね!!」
相手が何やら喚いている。
しかしそんな事を気にしている暇はない。それよりもなんとか両腕の痛みや熱さを我慢しながら、相手を倒す事だけを考えて動く。
ほんの一瞬で構わない。
隙を、連続攻撃で引き出す。
余裕ぶっている相手から!!
互いの拳だけじゃない。手刀の突きも、繰り出したり払ったりを繰り返す。時にはその勢いを利用して互いを転倒させる事もあるが、お互い受け身をとる。まるで中国のアクション映画のような連続攻撃だ。しかしなんというか、こっちは余裕がないのにそれでも互角って。万全の状態なら、私が有利だったのかな。
いや、そんな事を考えている余裕はない。
相手から解毒剤を強奪するためにも倒さねば。
そして次に、私が相手の顎を目掛けて拳を振るった時だった。
相手はそれを予期していたのか、すぐに余裕の表情で避け……たつもりだった。
その時……私でさえも予想していなかった誤算が生じた。
避けられたハズの拳が、かすかにだが顎を掠ったのである。
これにはお互い驚いた。
そして後にこの時撮影されていた映像を私達は見て確認するのだが……どうも私の腕が、毒のせいで腫れ上がっていたらしく、そしてその腫れていた分をお互いに計算していなかったために起こった奇跡らしかった。
そしてその奇跡のおかげで、私に顎を掠られたせいで、相手の平衡感覚が、一瞬揺らぐ。ボクシングの試合などでも時々起こる、相手の顎に拳が掠った事で、相手の脳みそが揺れるあの現象が起こったのだ。
そうして出来た隙を、私は見逃さない。
すぐに体当たりを仕掛け体勢を崩し、相手を寝転がせた後、師に教えてもらった関節技で終わりにする!!
「アームバァァァァーーーーッッッッ!!!!」
別名、腕挫十字固め。
師の使う格闘技の親戚とも言えるブラジリアン柔術でも使われる関節技。
相手の上腕部を自分の両膝で固定して、テコの原理で相手の腕を反対側に反らすという技だ。
「~~~~~~~~ッッッッ!?!?!?!?!?」
まさか両腕に毒を受けた私に関節技を食らわされると思わなかったのか。
相手は、声にならない声を上げながらジタバタと足掻いた。そして、そのせいでチャイナ服から下着が見えかねないようなハレンチな有様になったのだが気付いてなさそうだ。たとえ観客が「おおっ!」と騒めいても。
そしてその足掻きは、長く続かなかった。
三十秒経つか経たないかのところで、相手は金網を叩いた。
私の初戦は、私の勝利に終わった。




