六十二服目 Play Back(8)
「お前はいずれ、この上條グループを背負う存在だ」
母様が死んでから。
父様は変わってしまった。
「この国の経済の一端を担う、選ばれた存在である自覚を持て」
なぜなのか、当時は分からなかった。
前は温厚な性格だった父様が、いきなり豹変して……混乱していたのもあるかもしれないけれど。
「あんな平民共と馴れ合う事は許さん」
とにかく父様は、とても冷たく、厳しく、怖くて。
当時のアタシにとっては、絶対に超える事のできない存在だった。
何の疑問を抱かずに、ただただ従順に……その指示に従う以外に道はなかった。
だけどアタシには、父様ほどの勉学の才能はなかった。
代わりに、運動神経はある程度高かったけれど……そのせいでアタシは、何度も何度も父様にぶたれた。
「お前はテストで満点を取る事さえできないのか。私の子供であるならば、できて当然の事ができないハズがない。お前はこの私の後継者であるという自覚が足りていないのだ」
アタシは父様じゃないのに。
できる事とできない事があるのに。
父様はアタシを、一人の人間としては……もう見てくれない。
その事がとても悲しくて。
何度も元の父様に戻ってほしいと願ったけれど。
その願いは天に届かなかった。
そして、いつからかアタシは。
絶望のあまり、感情を無くしていった……。
※
しかしそれでも、父様が変わる事はなく。
学校で成績を上げる事ができず、それが成績表で判明する度にも殴られるようになり……早数年。
「璃奈、今日はお前の帝王学の教育も兼ね、私の取引先である、アメリカのとある会社へと一緒に出向いてもらう」
アタシが十二歳になって、数日経った頃の事だった。
ずっと国内で勉学を強要していた父様が、突然そう話を切り出した。
なぜわざわざ海外に行かなければいけないのか。
さすがに不信感が生まれたけれど、アタシはすぐにそれを封じて「はい」と了承した。疑問に思ったところで意味はない。
答え程度自分で探してみせろと、そう答えが返ってくるだけだから。
今までそう返された疑問全てが。
アタシの中で、解決できているワケじゃないのに……。
※
「ミスター・カミジョー、待っていたぞ」
「ミスター・スコーピオ。元気そうで何よりです」
アメリカ合衆国・ニューヨーク州。
父様の取引先の所有物である建物の最上階。
そこで父様は、一人の西ユーラシア系の男性と向き合い、握手を交わした。
「そして隣にいらっしゃるのは、ご息女かな?」
アタシに合わせてか、日本語で話しかけてくる……スコーピオと父様に呼ばれた男性。アタシは父様にまた窘められないよう「初めまして。上條璃奈といいます」と挨拶をした。ちなみにお辞儀はしない。お辞儀は、アメリカのスタイルではないから、と父様に飛行機の中で言われていたからだ。するとスコーピオという男性は「可愛らしいお嬢さんだ」と微笑みを見せつつ言った。
「恐れ入ります」
反対に父様は、顔色を変えずに言葉を返す。
「それと、ミスター・スコーピオ」
そしてすぐに、本題に入った。
「今回はお招きいただき、ありがとうございます。しかし、よろしいのですか? 私としては大変ありがたいのですが……あなたが主催する大会は、この子の年齢的に少々過激だと思いますが?」
「フフッ。ノープロブレム」
スコーピオという男性も、顔色を変えずに言った。
「今回は子供限定の大会です。それにあなたは、教育方針に悩んでいるらしいじゃないか。今大会は……ご息女に社会の縮図を見せる良い機会だと思うがね?」




