五十六服目 Play Back(2)
組織に新たに入ってきた男性は、元格闘家らしい。
どうも試合中に相手を殴り殺してしまい、逃げてきたそうだ。
…………と構成員の誰かが言っていた。
そしてそんな男性が、あてがわれた部屋に薄着でいた私を見るなり言った。
「ッ? お前、その体つき…………なかなか強いんじゃねぇか?」
変な男だった。
組織内には確かに、私の体を注視する人間もいる。でもそれは、女としての商品価値があるかどうかを見定める際の視線か、性的な視線かのどっちかだ。
にも拘わらず、男のそれはどちらでもない。
いや、どちらかと言えば商品価値があるかどうかを見定める視線に近いかもしれないが……何にせよ、私が、将来する事になってしまった売人としての価値以外の価値を見いだす人がいるなんて。
確かに私は、組織に拉致される前は、近所の貧困層仲間の悪ガキと何度も喧嘩をした事がある。そしてその度に、その悪ガキを泣かしてきたけど…………男はそれを、私の体つきを見ただけで見抜いたの?
この組織に所属する事になってしまって以降、私の商品価値を落とさないためかある程度食生活は安定しているけれど……拉致された直後に比べると確かに少しは健康的な体格になったけど、まだまだ痩せ気味な私を見ただけで私の戦績を見抜くなんて…………この男、ただの格闘家じゃない。
「…………いったい何の用?」
そして、だからこそ私は警戒して問いかける。
すると男は「組織から説明があったと思うけど、俺は格闘家だった」と、改めて言ってから「それで俺は今、ボスのボディガード候補の一人なんだが……お前も、ボスのボディガードを目指してみないか?」
……………………まるで世間話をするかのようにそう言った。
私の頭の中が一瞬、真っ白になった。
薬を打たれたり、打たれた上で乱暴される時とはまた違う真っ白だ。
でもなぜか、嫌な気分じゃない。
自分の、女としての価値以外の価値が認められたからか。
「………………それに乗ったとして、私に何の得があるの?」
だけど、どっちみち怪しいので一応警戒しておく。
「あるさ」
男は、私の質問に即答した。
「俺がお前を、次期ボディガードとして育てたとすりゃあ俺の株は組織内で上がるし、お前もお前で、もしもボスのボディガードになれれば、今よりもっと生活水準が上がるぞ。Win-Winってヤツだ」
「…………うぃん……なに?」
私の知らない言葉だった。
「なんだ。知らないのか」
元格闘家の男は苦笑しながら、話を続けた。
「ようはどっちにも得があるって事だ。どうだ? 乗ってみないか? 今の生活に不満があるだろ? もしもボスのボディガードになれれば……富裕層の仲間入りも夢じゃないぞ?」
「ッ!!」
富裕層。
その言葉に、私の心は揺らいだ。
それは、祖父母の代からの………私の家族の悲願。
でも、そこに至る手段は。
きっと、私の死んだ家族に対して誇れない事。
だけど、今の私は。
薬の影響なのか、マトモに頭が動かなくて……。
いつの間にやら。
私は男の差し出した手を握っていた。




