四十四服目 怪氣学園S(20)
清雲高校の南校舎にある昇降口。
そこには、男女合わせて十一人もの青年達と、昇降口での一戦で、璃奈の一撃によって伸びた、不完全なる煙草の売人の一人と思われる男がいた。
青年達は、カノアが言っていた知り合いの学者――中塚に、助っ人として連れてこられた、彼のゼミに所属する学生達。
カノア達とは別のルートから、校舎の中へ潜入をした中塚、彼の教え子であり、カノアの居候先の主人でもある一美、一美の後輩にして、同じゼミの仲間でもある女性の三人の帰還地点の確保のため。璃奈が撃退した売人の調査のため。そして、なんらかのアクシデントにより中塚達が撤退する事になった場合に備え、待機している頼もしき助っ人要員達である。
「ん? おいおい……これはいったい何だ?」
そんな学生達の一人……伸びた売人の持ち物を調査していた者が声を上げた。
「どうした?」
他の、伸びた売人の持ち物の調査を担当していた学生が、声を上げた学生に声をかける。すると声を上げた学生は「これ見ろよ」と、手の中に収めていたモノを、訊いてきた学生へと放りながら言った。
「…………これはッ」
受け取った学生は、パスされたモノを見て訝しげな顔をした。
それは、一見するとガムを始めとする食べ物を包んでいたと思われる、長方形の銀紙がクシャクシャに丸められたモノだった。
ハッキリ言って、ゴミである。
しかしゴミならゴミで、なぜ売人はすぐにそれを捨てなかったのか。
ここは高校。ゴミ箱など、探せばいくらでもあるし、この清雲高校を、自分達の利益のための食い物にしているならば、少なくとも彼ら売人はこの学校にそこまで愛着はないハズだ。ポイ捨てなどしてもおかしくはない。というか不完全で、依存性がある煙草を生徒に売り付けようとするような犯罪者が、ゴミをわざわざ取っておくなど……売人が綺麗好きなだけなのか。それとも、証拠を残そうとはしない、慎重派なのか。
そして、もしも後者ならば……売人が所持していたこの銀紙は何なのか。
そう考えると、どうも怪しい。最初にこの銀紙を発見した学生は、その怪しさに注目したのだろう。受け取った学生も、すぐに発見した学生の意図を察した。
「つまり、このゴミこそが……彼らの、なんらかの秘密に繋がってる可能性が?」
「その通りッ」
銀紙を発見した学生は、両手の人差し指と親指を立てて、人差し指の方を、銀紙をパスした学生へと向けて言った。
「これは、調べる価値があるゴミなんじゃない?」
※
「チハル!!」
敵と思われる存在に連れてこられた先に……捜していた親友がいた。
そんなまさかの展開に、カノアは驚き、目を丸くした。
本当は、千桜が無事であった事を喜ぶべきかもしれない。近付いて、抱き締めてあげたりしなければいけないかもしれない。
だがカノアは、素直に喜べない。
なぜなら、あまりにもご都合主義な展開であるが故に……嫌な予感を覚えていたからだ。
敵である売人達にとって、自分達は邪魔な存在のハズ。
そして敵が、千桜や美彩を拉致したのは、彼女達を人質として使う事で、カノア達の動きを阻害するためだろう。
しかし、それならそれでなぜ……これまでにそのための要求がないのか。
カノアとしては……たとえ、要求があったとしても、彼女達を不完全なる煙草の犠牲者にしないために、敵が本格的に動く前に突入しようと思っていたのだが……それでも校内に突入した今も、要求らしきモノを聞いていない。いやそれどころか捜していた親友のもとまで運んでくれたり武器を没収しなかったりと……明らかに敵としてはおかしい行動だ。
何かがある。
そう考えるのが自然なくらい……怪しい状況だ。
そして、その嫌な予感は……思ったよりも早く現実となった。
鈍い光を放つ刃物を持った千桜が、カノアに向かって駆け出すという……悪夢としか思えない現実という形で。




