二十三服目 警告
「むぅ!? 先祖の霊が警告をしているのじゃ!!!?」
璃奈の煙術の特訓(物理)の最中、その師匠であるカノアは何の前触れもなく、大きな声を発した。彼女を必死に捕まえようとしていた璃奈は、突然の事に驚き、思わず動きを止めてしまう。
「な、なんだよテメェいきなり……ッ」
まさか厨二病的な症状でも発症したのかと思った璃奈。しかし次の瞬間、彼女はその場の空間の違和感に気付く。
――何かが、在る。
そうとしか表現できない状況が、自分達の周囲に展開していた。
その何かの正体は……なんとなくだが、煙術の特訓を始めたばかりの璃奈でさえも、掴めた。確証こそないが……おそらくは、以前カノアを病院送りにした幽霊のような存在だと。
それにカノア自身が口にした〝先祖の霊〟という言葉。
もしかすると、日本でいうお盆に似た状況になっているのかもしれない。いや、実際にお盆に先祖の霊が帰ってくるのかはともかく。
「ま、マズいのじゃ」
璃奈が、周囲の状況にどう反応すればいいのかを迷っている時だった。カノアは険しい顔をしながら、璃奈に向き直った。
「チハルの身が危険じゃ!! 早く助けねば!!」
「き、危険? オイ、いったいどういう状況なのかこっちはサッパリだっての!! 落ち着いて話せ!!」
璃奈は未だに混乱しながらも、とりあえずこれ以上の混乱は勘弁だと、反射的にカノアの肩を掴んで揺すった。ハタから見ると、恐喝をしているように見えるが、そんな事を心配している余裕はない。本当にサッパリなのだ。
「う、うむ」混乱のあまり鬼気迫る表情をした璃奈を見て、カノアはようやく落ち着きを取り戻した。「伝説のシロギャル、今の貴様なら気付いているだろうが……現在この場には幽霊がいる!!」
「…………ッ」
まさかとは思ったが、本当にそうだと断言されて驚愕する璃奈。
しかしよくよく思い返してみれば……問題の煙草には、吸った者の秘めたる力を目覚めさせる効果がある、とカノアは言っていた。ならば、その煙草のオリジナルである、カノアの持つパイプ煙草にも同じ効果があるのでは……いや待て、暫し。
「ま、まさか」
途中で、ある可能性に気付き……璃奈は顏を引きつらせつつ訊いた。
「アタシの体が、最近妙に軽い気がするのは……?」
「おおっ!! 幽霊だけでなく、それにも気付いていたか!! それはワシの煙草の効果じゃ!!」
「…………マジかよ」
カノアの煙草の煙を吸ったのは、レストランからの帰り、そして病院での二回である。にも拘わらず、まさか残像が見えるアクションができるほどまで効果が出るとは。という事は、その問題の煙草を吸う連中も……もしや今の自分と同じような状態になっているのか。
近い内、連中と衝突する可能性を考えると……いろいろ面倒だと璃奈は思った。
「そしてワシらのような霊媒師は、煙草を吸う事でその力をさらに発揮してきた。じゃから今でも先祖の霊と……おっと、そろそろ本題に入るのじゃ!!」
途中でカノアは顔色を変えた。
千桜の身が危険だという事を思い出したのか。
それとも先祖の霊とやらに思い出させられたのか。
「今すぐに探偵部のみんなを招集する!! あとは腕っぷしに覚えがある知り合いがいれば呼んでくれると嬉しいのじゃ!!」
「おいおい。なんか物騒になってきたな。戦争でもすんのかよ?」
先ほどの『近い内』が『今』になりそうな予感がして、璃奈は青ざめた。
「一応じゃ。一応」
カノアは、険しい顔のまま平静な口調で告げた。
「先祖の霊が言うには、問題の煙草を使う者が絡んでいるらしいからのォ。できる限り、戦力を集めるに越した事はないのじゃ!!」




