十七服目 中南米から来たアイツ(後)
むかしむかし、中南米に文明が生まれる前の事。
一柱の神が、他の神々が天地開闢に勤しむ最中に降臨した。
彼の名は、エル・フマドール。
彼には奇妙奇天烈奇々怪々な権能があった。
それは、彼が生み出す煙に当たったモノが、それが何であれ、穢れていれば……必ず浄化されるというありがたいモノだった。
なので彼は天地開闢の際、最後の仕上げとして大地を浄化する役目を負った。
そして天地開闢が成された後。
彼は相変わらず煙を吐き続けていた。
煙の中毒になった、というワケではない。
浄化したハズの地上が、再び穢れてきたからだ。
どうやら神であろうとも、浄化する事はできても、穢れの原因を取り除く事まではできなかったようである。
そしてある日、そんな日常に変化が訪れた。
なんと地上に生命体が増えるのと比例して、穢れの量が増え始めたのである。
調べてみると、どうやら生命体同士の生み出す騒乱が、地上の穢れの発生の原因の一つとなっているようだった。
このままでは、自分の能力の限界を超えて。
いずれ必ず、地上に穢れが満ち溢れてしまう。
その事を危惧したエル・フマドールは、地上に降臨した。
己の持つ神器の作り方、神器に入れる薬草の育て方、そして穢れを浄化する煙を発生させる技術を……地上の人間に伝授するために。
そしてその事をキッカケとして、いつの間にやら地上には、エル・フマドールを崇拝する宗教組織が誕生していた。
彼らは基本的に、決まった土地に執着せず、常に旅をし続け、発見した穢れを浄化するという使命を遂行し続けた。
しかしそんな彼らも、時代の流れには逆らえなかった。
帝国という巨大な集団の誕生。
その集団に属さない異端者の排斥運動。
その帝国さえも蹂躙する巨大勢力の出現。
まったく異なる思想を持つ巨大宗教組織の出現。
そして……多くの勢力が歪な形で融合した、超巨大国家の出現。
※
「とにかくその煙草の神エル・フマドール様を崇拝する集団は、いろんな世界の者が自分達の活動してきた領域……主にアメリカ大陸じゃな。とにかくそこに人が流入してきた事で、アメリカ大陸以外の世界の存在を知った。外から入ってきた連中に、時々異端者として殺されながらものォ。中には新天地見たさに外の連中の船に乗った怖いモノ見たさなヤツもいたが……いや、重要なのはそこではないのじゃ」
まるで子供に童話を聞かせるかのように、穏やかな口調でカノアはそこまで語ると、一度かぶりを振って……再び口を開いた。
「その外からやってきた連中の中に、煙草に興味を持った連中がいてのォ。あまりにもしつこく訊いてくるからと……それなりの対価と引き換えに、煙草関連の情報をゲロってしまった同胞が現れた」
カノアはまるで、ゴミムシを見るような眼差しをした。
「しかもその異国のモンが作った神器や薬草……現代の煙草に繋がるそれときたら本物の煙草と比べると不完全で、さらには吸った者を中毒にするという、恐ろしい副作用を秘めていたのじゃ」
カノアの目が、蔑みの眼差しから真剣な眼差しへと変わった。
「さらに最近では、どうもワシらの煙草の効果へと近付けるためか……吸った者の秘めたる力を目覚めさせたり、霊的存在に干渉するような、恐ろしい煙草まで現れおった」
そしてそこまで語ると……彼女は一度目を閉じ、再び開いてからようやく本題へと入った。
「ワシはその、エル・フマドール様を崇拝する宗教組織の一員じゃ。そしてなぜに清雲高校へ転校してきたかと言えば……ちょっとした情報筋より入手した情報の中に、清雲高校でその、吸う者の秘めたる力を目覚めさせたり、霊的存在への干渉ができる新型の煙草が売り捌かれている、というのがあったからなのじゃ」
聞き届ける霧彦達と、時折視線を合わせながら……彼女は最後にこう語る。
「ワシはその……ゲロってしまった同胞の尻拭いのため。本来の存在理由から外れた煙草をこの世から根絶させるため。そして世界から穢れを、少しでもなくすために……清雲高校へと転校してきたのじゃ」
エル・フマドールは実際に語られている煙草の神です。
だけどちょっとその伝説を、小説用にいろいろ変えました(ぇぇぇ




