十四服目 新たなる犠牲者
「…………あいつ、いったい何をしてんだ?」
今や閉鎖された二年A組の教室の前。須藤政宗はそこを、取り巻きと一緒に通りかかった時、教室内に、普通に考えればいるハズのない存在がいるのに気付いた。
「う~~む。憑依された者の机には……特に何もないか」
『出る杭は打たれる』ということわざの通りに、かつて『調子に乗っているんじゃねぇか』という言いがかりと共に喧嘩を吹っ掛けたが、逆に首を極められる寸前へ須藤を追い詰めたカノアである。
思い出しただけで、あの時の屈辱が須藤の脳裏に甦る。
「~~~~ッッッッ!!!! ああくそッ!!」
途端に、須藤はやり切れない気持ちになった。
「ムシャクシャするぜ!! クソッタレ!! こんなにもイライラしたのは、兄貴が俺のプレイしていたゲームを勝手にクリアさせてたのが判明した時以来だ!!」
「うっわ。ヒデェ兄ちゃんすね」
「あ、俺も弟に同じような事されたっす」
「てかお前もかよ」
取り巻きは取り巻きで勝手に盛り上がった。
すると次の瞬間。その弟にゲームをクリアされていた取り巻きはハッとある事を思い出した。
「そうだ、須藤さん! 良い事を思い付いたっす!!」
※
「…………アンタら、さすがにストーキングはヤバいんじゃないの?」
昼休みになり、屋上で不良仲間と一緒に弁当を食べようと思い階段を上っていた璃奈は、信じられないモノを目撃した。
三階。この高校では一年生のクラスがある階の、階段のそばに立っているカノアを、階段の踊り場から覗き見る須藤とその取り巻きである。
「ッッッッ!!!! て、テメッ! 上條璃奈ッ」
須藤は慌てつつも、声を抑え、璃奈達と相対した。
「こ、これは決してストーキングではないぞこの野郎ッ」
弟に勝手にゲームクリアされた取り巻きが、反射的に弁明する。
「次に相対した時、須藤さんがあの転校生に絶対に勝てるように……情報を集めているんだッ」
そう言いながら、彼は弟に「兄貴は行き当たりばったりな戦法ばっかだな。それじゃあ俺の情報を用いた戦法には敵わないよん♪」と小馬鹿にされたあの時を思い出す。思い出しただけで涙が出てきた。兄貴として情けないが……彼は泣きながらも己の弱さを認めて前に進むような立派な漢だった。
「いや、たとえストーキングでなくとも……下手すりゃ角度からしてスカートの中が見えるじゃん。事案じゃん」
しかしそんな彼の弁明は、璃奈の隣にいた陽にクールにぶった切られた。するとようやく須藤達はその事を自覚し、精神に大ダメージが入った。
「うっわ。ちょ、サイテー。陽、とりあえずアタシ、転校生に場所移動するように言ってくるわ」
「ッ? おう。いってらー」
璃奈は須藤達を、まるでゴミムシを見るような目で一瞥した後、己のスカートの尻の部分を押さえて階段へと足を掛けた。
それを見た陽は、購買に弁当を買いに行った美彩がいつ戻ってくるかを考えつつ……璃奈の、ちょっとした変化に驚いていた。
煩わしく思っていたハズの転校生を気遣えるとは、いったい何があったのかと。
するとその時だった。
カノアの方が先に大きなアクションを見せた。
「オイ貴様!!」
カノアが誰かに呼びかける。
璃奈と須藤は、もしかして自分の事かと一瞬思った……が、直後に自分ではないどころか、この世の存在ではない存在に言った事だと気が付いた。
カノアの方へと目を向けると、なんと彼女は階段に向かって走ってきた、半透明な少年へと視線を向けていた。
少年は話しかけられ、ギョッとした。今までなかった経験なのだろう。璃奈達もギョッとして、思わず息を呑んでいた。しかしカノアは、彼女達の存在に気付かずに、仕事道具たる煙草を取り出しすぐに吸い込み――。
――話しかけた事で隙の出来た少年へと、口内に溜めた煙を吹き付けた。
途端に少年は目を見開き、頭を抱え……絶叫した。周囲のガラスが、ビリビリと振動する。さらにはその顔が、苦しみのあまり物理的な制約を超えて大きく歪む。それこそ、まるで映画に登場する凶悪な化け物のように。それを確認したカノアはすかさず次弾を撃つべく煙草を口に添えた。
だがその直後。
カノアにとっては想定外の事態が起きた。
ドンッ、と……己に触れないハズの少年に押されるという、不可解な事態が。
「…………は?」
驚きのあまり、カノアの頭が一瞬……真っ白になった。思わず受け身をとる事も忘れ、彼女は階段へと落下していく。
「アブねぇ!!」
すると下で見ていた須藤が、咄嗟にカノアを助けるべく動いた。
しかし、落下の勢いを一人の男の力だけで殺せるワケがなく……二人の体は踊り場に、勢いよく叩き付けられた。
「うおおおぉぉぉぉーーーー!!!! 須藤さーーーーーーん!!!!」
「ば、馬鹿野郎……なに、泣いてんだよ」
「な、泣いたっていいんす!! それが俺の弱さだってんなら、俺は!! それを受け入れて、泣きながら前に進むっす!!」




