十一服目 真面目人間の困惑
――ああ。なんであんな結果になったんだ?
霧彦は湯船の中で困惑していた。
思い返すは一時間目の授業の最中。転校生のカノアはお茶を摘みに行く(明らかにお花の間違いである)と言って、明らかにA組で何やら起きているにも拘わらず教室を突っ走り廊下に出た。
そしてそんな彼女を止めるべく、霧彦は走らずして素早く廊下に出た……のだがそこで、明らかに煙草の煙と思われる煙が充満しているA組が目に入り、さらにはその教室内でカノアを発見した。
まさかと思い、彼は試しに、カノアにポケットの中のモノを出すよう指示した。すると彼女は目を泳がせながらも……なんとパイプ煙草を出した。予想の斜め上であった中身に、霧彦は少々驚いたが、どちらにせよ彼女が喫煙していた事はこれでほぼ間違いない。そう思い彼は、カノアの身柄を担任の教師に預けた。
問題はここからだ。
いや同級生が喫煙していた事も充分問題だが、それ以上に……二年A組の惨状、そしてカノアのその後が問題だった。
まず初めに二年A組だが、先生と生徒が揃って、壁や床に体を打ったせいで気絶していた。これでは何が起こったのか不明である。事件が起きた後、別のクラスの先生達が、彼らを病院に送り届け、その際に彼らの様子を確認したらしいが、その先生達によれば、彼らには目を覚ます気配がまったくないらしい。
おかげでいったい何が起こったのかを知る手段の一つが消え、そのせいで原因を取り除くという作業ができなくなったため、原因が究明されるまで二年A組は立ち入り禁止となった。
今では刑事ドラマなどでしか日常的に見れない【KEEP OUT】と書かれているテープが二年A組の出入口に張られている。
そして次にカノア・クロードについて。
二年A組で起きた事件の一部始終を知っていると思われる彼女は、事件に関しては黙秘を決め込んだ。もしくは「禁則事項じゃ」などとフザけた返答をした。唯一話してくれたのは、隠し持っていたパイプ煙草が仕事道具である事くらいか。
――いやそもそも、煙草が必要な仕事って何だよ?
湯船のお湯を顔にかけ、それを拭いながら霧彦は考える。
だがいくら考えたところで、パイプ煙草を使った仕事が分からない。というか、イメージできない。
――というか、なんでそんな正体不明な仕事をしているクロードくんを……先生達は、煙草を返した上で教室に帰したんだ?
それどころか、その後に発生したさらなる謎が霧彦を悩ませる。
一時間目が終わる前に、カノアは教室に戻ってきた。しかもパイプ煙草が入っていたポケットを膨らませたまま。誰がどう見ても煙草が彼女に返されている。
その事に気付いた後、霧彦は國士に抗議した。
なぜ彼女に煙草が返されているのか。というかそもそも吸うだけで不健康になるリスクがある煙草を吸っているのを見逃していいのかと。少なくとも放課後まで没収しておくべきではないかと。いやそれ以前に現在の彼女の保護者を呼ぶべきではないのかと。
しかし國士から返ってきた返答は……たった一つ。
――彼女の煙草に、これ以上関わるな。
あまりにも不可解な、そして納得できない返答だった。
すかさず霧彦は、國士にさらなる追求をした。しかし彼は、本気で困惑しながら「俺だって分からんのだ」と返すだけだった。
結局カノアの煙草の謎や、二年A組で何が起こったのかは……放課後を過ぎても彼には分からずじまいだった。
そこまで思い返すと、とりあえず霧彦は風呂から上がる事にした。
というかこれ以上お湯に浸かっていては、下手をするとのぼせてしまう。
風呂から上がり、体を拭き、寝間着に着替える。
そして彼はいつも通りに明日の予習を自室でしようとして……何を思ったのか、奥の畳部屋へと急に進路を変えた。
誰もいない家を真っ直ぐ進み、霧彦は目的の部屋の前に辿り着く。
部屋のドアを、彼は静かに開けた。
途端に、部屋に漂っていた白い煙が部屋の外へと吐き出され……渋い顔をした男の写真が置かれた、一基の仏壇が現れた。




