九服目 生徒指導室の攻防
校長の名前、変えました。
「転校生が隠れ不良、というパターンが来るとは思わなかったぞカノアくん」
二年B組のクラス担任であり、体育担当教師であり、そして生徒指導の先生でもある尾之上國士は、生徒指導室で苦い顔をしながらカノアと向き合っていた。風紀委員であり己の担当クラスの生徒でもある霧彦から、カノアが煙草を吸っていたと報告を受けたからである。
「どうして煙草なんてモノを持ち歩いているんだ? しかもあんな……パイプ煙草なんてレトロなヤツを」
口先では生徒指導の先生らしいもっともな事を言う國士。しかし彼は、心の中では困惑していた。
――そもそもパイプ煙草の喫煙に誘うようなヤツが今時いるのか、と。
試しに、前の学校の友達から、カノアがパイプ煙草を受け取るシーンを想像してみる……変だ。学生らしくない。似合わん。不自然すぎる。なら親か? いやいやそれはそれで大問題だがパイプ煙草を吸うよう子に勧める親など聞いた事もない。
「友達に誘われたのか? それとも親か? 誰にしても、煙草はな、日本では学生は吸っちゃいけないんだ。知っているよな?」
しかし生徒指導の先生として、たとえ背後関係が不可解であろうとも、そういう質問を生徒にしなければいけない。そうやって少しずつ生徒を諭し……彼ら彼女らを健全な方向へと導く。それが先生であり、人生の先輩としての使命だと、國士は信じて――。
「仕事の道具じゃ!! それ以上でもそれ以下でもない!!」
「余計問題だカノアくん!!!!」
しかし当のカノアに胸を張られた上で堂々と言われ、叱り飛ばしたものの、國士の信じているモノが少し揺らいだ。
なんで叱られるべきところで彼女は堂々と胸を張れるのだろうか。普通ここは、不貞腐れるべき場面ではないのか? 後ろめたい思いに駆られるべき場面ではないのか? それとも自分が変な事を言ってしまっているのだろうかと、徐々に不安が心を支配していく。
「というか、仕事ってなんだ!? アルバイトか!? ちゃんと申請は出しているのか!? ……っていやいやパイプ煙草が仕事道具っていったいどんな仕ご――」
しかしここで負けるワケにはいかない。先生が生徒に気圧されてどうすると己を鼓舞し、國士は再びカノアを叱ろうとするが……そこまで言って、彼はある可能性に思い至った。
少女。
仕事。
煙草。
……大人の男であるが故に、彼にはそれしか連想できなかった。
――花魁。
――今でいう風俗嬢。
なるほど。確かに彼女達には煙草を吸っているイメージがある。
しかしだからといって、煙草が彼女達の仕事道具というワケではないだろう。
だが事実として。國士だけでなく我々も、煙草を吸うのを仕事、もしくは仕事の一部にしている職業など、花魁以外に聞いた事もない。売るならともかく。
…………って、いやいやいやいや待て待て待て待て!!!!
しかし國士は先生である。
生徒の前でいかがわしい想像をするワケにはいかない。仮にカノアが本当に花魁の仕事をしていようとも。外国人で合法ロリな上に胸もそこそこあるような、レアな生徒であろうとも。
「と、とにかくだなカノアくん」
だから國士は、再び生徒指導の先生としての話をする事で気持ちを切り替えた。
「どんな仕事であろうとも、煙草を学生が吸っては――」
「失礼しますよ」
気持ちを切り替えたその瞬間、生徒指導室に一人の女性が、ノックもせずにいきなり入ってきた。するとその直後、カノアと向き合った状態のまま、國士の表情が固まった。
「こ、ここここ校長ッ」
彼はすぐに後ろを振り向き、清雲高校の校長である長月忍に言った。
「いえ違うんです。俺はいかがわしい事なんかッ!」
「???? なんの事?」
いきなりそんな言い訳をされても、忍にはチンプンカンプンであった。
「それよりも尾之上先生、先ほど――」
それはともかく忍は、すぐに気持ちを切り替え本題に入った。
國士の耳元に己の口を近づけると……彼女は小声で連絡事項を告げる。
するとその瞬間、國士は信じられないモノを見たかのように瞠目し……カノアに視線を向けた。
煙草のモニターってセンは……いやいや聞いた事ない。
いや私が知らないってだけで、存在したりするのかな?




