表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の、特異点 ──この未来に、僕はいない。  作者: 木村色吹 @yolu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/30

第18話

「ドッペルって、ドッペルゲンガーの?」


 内海さんはいいながらアプリを開いて確認しだす。

 僕はそういうのは疎い。もちろん、やってもいない。

 そっと2人の様子を伺っていると、内海さんがスマホを僕に向けてくれた。


「これ見て、水野くん」


 そこで出してくれたのは、本当に知らない誰かか投稿したものだが、そこにはっきりと書かれている。



『子どもの自分が、懐かしい公園にいたんだけど

 めっちゃノスタルジー

 #ドッペル #ドッペルゲンガー』


『年上の女の人、わたしとおんなじとこにホクロと、エクボもあったんだけど! キモ!

 #ドッペル』


『家のなかに、なんか、俺がいるらしい

 一人暮らしなのに #ドッペルゲンガー』



 僕は言葉にならない。

 何が起こっているのかわかるだけに、息が詰まりそうになる。


「場所まで特定はできないけど、たぶんね、たぶん、近隣じゃないかなとは思ってるんだー」


 裕真がそういいながら、タブレットのスクショを数回動かした。

 こういう投稿をする人は、日常的な動き、特にカフェへの来店やランチ、夕食の報告など、よくしているものだ。

 どれも、この市内をはじめ、近郊のお店であるのがよくわかる。


「……というわけ。で、オレは、宙に謝ろうと思ってる」


 何かと思っていると、メロンソーダが届いた。

 裕真はそれに口をつけないで、僕と対面になるように腰をずらす。


「からかいたかった、ってわけじゃ……いや、からかってたとは思う。でも」

「でも?」


 僕が言葉を返すと、裕真は俯いた。

 俯いて、また僕を見る。


「視えていないことを、確認したかった」

「やっぱり、嘘ついてるって思ってたんじゃん」


 内海さんの声に、首を振った。


「ちがうって。そうじゃなくって」

「ううん、ちがわないと思う」


 内海さんはコーヒーカップに口をつけた。

 つられて僕もコーヒーを飲む。

 それを叱られた子どものように上目遣いで僕らを見ながら、裕真がぼそりと声を繋げた。


「……なんていうのかな。共感覚もってる人っているじゃん。どっか特別で。オレもそんなのになりたかったんだと思う。だから……」


 それを聞き、今度は僕が声を繋ぐ。


「ごく普通の、何の取り柄もない僕がそういうのをもっているのが、許せなかった。だよね」

「そこまで言ってないって」


 苦笑いをする裕真だが、また俯いた。


「……そうかもしれない。……いや、そうだと、思う」


 深呼吸する。

 そして、裕真は吐き出した。


「……だってオレも何か(・・)になりたかったから」


 僕だってそうだ。と、返したくなる。

 だけど僕の視えることなんて、ただの現象に過ぎない。

 結果ばかりで、過程ではない。

 特に素晴らしいものでもない。

 それなら、友好関係が広く、勉強ができるほうが、すでに何かになれている気がする。

 でも、持っている人は、持っているものに気づかない。

 常に持っているから、みんな持っていると勘違いしてしまうんだ。

 僕なんか、何一つ、取り柄もないのに────


「──裕真は、もう、たくさん持ってるよ。それに、ちゃんと何かになってる。例えばクラスの人たちからは、頭いいって知られてるし、ユーモアもあるし、一目置かれてるよ。とってもすごいことだと、僕は思う」


 顔を上げて、裕真は照れくさそうに首をかいた。


「ちがうよ。それは、なんかちがうと思うんだ」

「私はわかるかも」


 内海さんは、うーんとうなったが、いい例えを見つけたようだ。


「なんていうのかな、本をたくさん読んでてすごいっていわれても、読もうと思えば読めるでしょ? でも、本を書くってなるとそれは全然ちがうことじゃない。そういう、似てるけどちがう存在って、憧れちゃうんだよ」

「そうかな。僕は2人が羨ましいから」

「「なんで?」」


 声が揃った。

 2人も揃うとは思ってなかったようで、顔を見合わせている。


「僕は、その、わかると思うけど、協調性っていうのかな、なんか、足りなくて、いつも人の後ろをついていくばっかりで。前を歩けないんだ。2人はちがう。ちゃんと選んで、前を歩いてる」

「そう?」


 内海さんが驚いた顔をした。


「それなら、もう水野くん、もうずっと前から私の前にいるけどな。すっごく追い越されないように、私ががんばって早歩きしてる」


 吹きだした僕に、つられて裕真も笑う。

 まだ、わだかまりはあるけれど、無視できる程度のわだかまりだ。

 僕はぬるくなったコーヒーを飲み干した。

 みんなもそれぞれ飲み物に口をつけていく。

 心地いい空白のあと、僕はテーブルに出したままのタブレットに指をさした。


「ね、もう一回、ドッペルゲンガーの話、聞かせてくれる?」


 そうだったと言わんばかりに、手早くタブレットを操作した裕真は、昌平と哲哉とのやり取りのスクショを画面に映し出した。


「オレ、怪談系の動画とかよく見てるの知ってるからか、昌平からまず連絡来たんだよねぇ」


 2人のやり取りがある。

 ざっと見た感じ、昌平は肝試しに行ってから、何か変だといい出している。

 あれだけ頻繁なやり取りがあったのに、昨日の夕方にぴたりとやり取りが途絶えた内容だ。 


「で、どこに行ったの?」


 内海さんはいつの間にか眼鏡をかけ、取り出していたノートに手早くメモをしていく。


「それが、あのH小学校の、横の墓地!」

「あの横に墓地なんかあるの?」


 驚いた僕に、裕真が笑う。


「廃校になってからできた霊園なんだ。だからめっちゃ新しいとこなんだよー。知らなくてフツー」


 さらに内海さんが追加した。


「できた当初から怪談が絶えなかったんだよね、そこ」

「そうなの!?」


 驚いた僕に、内海さんは得意げに説明してくれる。


「そ。穴場なホラースポット、だったんだ。よくあるタクシーに乗った人をここまで届けた、とか、人魂が見えたとか、ありきたりだけど、話は絶えなかったの。で、ちょっと有名な配信者が凸して、一気に広まったって感じ。だから今は結構厳重になってるよ。お墓の敷地の周りは網が張られてるし、出入り口も一つだけ。監視カメラもけっこうあるって噂だけど」


 裕真が、「それがさー」と呆れた口調で話を続けた。


「でも、ほとんどがダミーで、北側の網の穴から入れば、散策ができるっていうんで、行ったんだって」


 タブレットから流れたのは、動画だ。

 スマホで撮影をしていたようだ。どちらかわからないが、声が入っている。

 ただ画面は暗く、足元しか映されていない。

 スマホのライトで歩いているのだろう。

 ついでの動画、と言った雰囲気だ。

 そこに声が入る。

 2人のやりとりだ。声は小さいが、聞き取れなくはない。


『ね、誰かいる?』

『うそだーやめろよー』

『え? なんか、中学の制服着てるやついる。うわ……俺に似た着方してる。キモいわ〜』

『マジ? 誰もいないって』

『……え? 見間違いかなぁ』


 2人の男のやり取りだが、はっきり聞こえた。


「昌平は中学のとき、冬になったら制服の下に絶対パーカーを着てたんだって。真夏なのにそれと同じ格好で、すごく印象に残ってて。そのパーカーも奇抜な色で、学校中探しても被らない派手な色だったらしいんだ。だから、もう一度見に行こうって。昌平の真似してるやつ、晒しあげようって魂胆だったらしい。で、昨日、もう一度墓地に行ってから帰ってきてないんだ」


 僕は首を傾げる。

 なぜなら、哲哉は哲哉を見ていないからだ。

 僕の表情から察したのか、内海さんがノートにペンをトントンと叩きつけた。


「なんでもう1人も?」

「それは、わからない。でも、失踪してるのは間違いないよ。……あれ? クラス用のトークルーム、見てない?」


 スマホを見ると、バッジがついている。

 開けば、クラス用のトークルームだ。

 管理者という名前でメッセージが入っている。


  浜田昌平くんと、加藤哲哉くんの行方がわかりません

  ご存知の方は、小さな情報でもいいので教えてください

  私個人へメッセージをくれても構いません(石田)


 石田は担任の名前だ。

 このトークルームは学校および担任が管理している連絡網の役割がある。

 それは、本当に昌平と哲哉が失踪している、ということになる。

 連絡は今朝の10時頃。

 僕にとって色々と心が忙しなかった時間帯だ。気づかなくても仕方がない。


「クラスのルーム、通知設定切ってたから気づかなかった」

「私も」


 内海さんもかい! と、ツッコミたくなるのを抑え、僕は改めて他のやりとりに目を落とす。

 特に有益な情報はないようだが、『肝試しなんかいくからだよ』というメッセージを入れている人がいる。


「あのさ、このメッセージいれてるのって、岩本だよね?」


 僕が画面を見せながらいうと、裕真がうんと頷いた。


「岩本、肝試し行ったの知ってたってことだよね?」

「そうなるよね。なんでだろー?」

「岩本くんも含めて、本当は3人でいく予定だったとか?」


 僕は腕を組んで、うーんと唸った。


「仮に岩本が行く予定だったとしても、あまり意味ない……いや、岩本が失踪系の話を知っていて、行かない判断をしていたなら、関係ある……?」

「じゃ、岩本に連絡してみるねー」


 フットワークが軽いのは、裕真もだった。

 僕は、2人から判断の速度を見習おうと、ノートに速度と書き込んだとき、スマホに通知が入る。

 台風情報だ。

 台風の速度が遅くなり、さらに方向が定まっていない。

 だが間違いなく花火大会は延期だろうと顔を上げたとき、裕真がスマホをつきつけてきた。

 掲げられたスマホの画面には、岩本からの返信がある。


  あそこさ、ばあちゃん曰く、神隠しがあったっていっててさ


 岩本のメッセージはさらに増えていく。


  なんか、そこら辺って、神隠し多いじゃん?

  昔、小学校で生徒がいなくなったりもしてるしさ

  だから、あんまし、よくないって伝えたんだけど


「やっぱり、昔からあるんだ……」


 内海さんの目が輝きだした。まるで珍しい宝石の原石を手に入れたような、恍惚そうな表情にも見える。

 僕はニシダ博士の言葉を思い出していた。

 線がゆるい、という言葉だ。

 

 どちらの世界も存在し、そちらの世界も選ばれなかった、もしくは選ばれたから、その混ざった世界線に観測した人が囚われている────


 この観測も、たまたま観測したに過ぎないはずだ。

 いや、観測しやすい環境なのだとしたら、誰もが囚われてしまう可能性がある。


「ね!」


 裕真が楽しそうに声を上げた。


「もしかしたら、怪異になった2人、その墓地にいるかもしれないってことだよねー?」

「ヤダよっ」


 僕はとっさに断っていた。

 行きたくない!

 元に戻せもしないのに、僕が観測したら、もっと最悪になる。絶対そうだ。


「最悪になる、とか思ってるでしょ?」


 内海さんが頬を肘で支えて、ペンで指をさしてくる。

 いきなり、ウインクしてきた!


「もう、すでに、全部最悪。これ以上ないから大丈夫だってっ」


 僕は素早く俯いた。

 茶化されたことよりも、内海さんの仕草がヤバい。

 陰キャの僕には刺激が強すぎる……!

 裕真を見ると、澄ました顔で僕にウインクしてきた。

 真顔で受け取るが、これは別になんとも思わないの自分の心に不思議だ。


「じゃあさ、観測ツアーしない?」


 裕真が手を上げ、提案しだした。


「まず、あのショッピングモールの通路のとこ、して、墓地でしょ? 最後は学校のグラウンドで花火でもしない?」


 僕と内海さんは顔を見合わせる。


「明日、花火大会、きっと延期だもん。いいでしょー?」


 裕真のダブルデート企画は水面下で続いていたようだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ