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僕の、特異点 ──この未来に、僕はいない。  作者: 木村色吹 @yolu


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第17話

 僕は、内海さんのフットワークが軽さを、改めて目の当たりにしていた。

 すぐに内海さんはSPOCに今日の“今”起こったことをわかりやすく書き込み、送信した。

 それは内海さんにとってのメモであり、僕にとっての確認にもなる内容だ。


 それは主に3つ。

 吾妻さんの失踪、学級新聞の書き換え、そして司書のお兄さんが怪異と化したこと、になる。


「どんな反応くるかなっ」


 楽しそうな内海さんに、僕の方はどんな反応をすればいいのか。

 今は飲食ができるスペースで、内海さんは炭酸ジュースを、僕は缶コーヒーを飲んでいる。

 すぐ移動ができるようにという提案からだが、お腹にリュックを抱えた僕の横で、内海さんはスマホのトークルームにいつ文字が入るか、そわそわしながら待っている。


「……あのさ、内海さんは、本当に怖くないの?」


 僕は、司書さんのような存在になってしまったらと思うと、息が詰まりそうになる。

 人の姿は見える。でも、認識されないというのは、苦しい気持ちにならないだろうか。

 それに、僕は、内海さんのそんな姿を視たくはない。


「……私は、そんな存在の仕方もいいかなって、……なんか、思ってる」


 静かな声だった。

 内海さんは炭酸ジュースを飲みほし、またスマホを見た。

 僕の手が震える。返信が入ったのだ。

 それは裕真からだった。


  そこの近くにファミレスのFあったよね

  そこで落ち合おう


「だって」


 内海さんはスマホの画面を落とし、バッグにしまう。

 僕も立ち上がりながら、


「なんか、隠した言い方してない?」

「そう思うよね。きっと、会った時に話したいんじゃない?」

「もったいぶらなくてもいいのに」


 僕が口を尖らせると、内海さんも口を尖らせた。


「こっちが全部、報告したのにーって思うよね」

「うん、そう思う」


 図書館を出ると、外はじっとりと暑い。

 風が通らないのがいけない。

 さらに天気がだんだんと崩れている。

 湿気った空気は雲を沈ませ、空気すら灰色にしている。

 もうすぐ花火大会だというのに、この天気の崩れ方は怪しい。


「もうすぐ、花火大会なのに、天気悪いね」


 つい、言葉にでてしまった。

 こんなこと言うつもりはなかった。

 わざわざ、花火大会という頭文字をつける必要なんて、なかったのに!


 内海さんは歩いていた足をとめ、突然手を叩いた。

 なにか、思いついたようだ。


「そうだ、花火大会、行ってみようよっ」


 内海さんからの誘いだが、どうもニュアンスがおかしい。


「もしかしたら、水野くん、いろいろ観測できるかもじゃんっ」


 やっぱり、そっちですか。

 僕は(わかってた)心の中でつぶやいてから、大きく、うんと頷いた。


「そうだね。観測できるかも」

「じゃ、花火大会の日、よろしく。時間は追って決めよう。私はスピリットボックス持ってく」

「ザーザーうるさくない、それ?」

「花火より、うるさくないってば」


 こんな軽口が内海さんに叩けるなんて、夏休み前の僕に教えてあげたい。

 お前が憧れているクラスメイトの内海さんと、しゃべりながら並んで歩いて、しかも、花火大会にも行くんだぞ! と。

 これを先に知っていたら、今の僕はどんな気持ちになっているのだろうか。

 やっぱりその通りだったと、喜ぶのか。

 それとも、喜びが半減する?

 はたまた、無駄なことをして、この現実を引き当てないかもしれない。


「水野くん、席さ、少し奥でもいいよね」


 到着したファミレスは、まだモーニングの時刻だが、中途半端な時刻なのか、客の数は少ない。

 そのため、ウエイトレスさんが案内してくれた席に対し、内海さんはさらに奥の方に目線を向けた。


「そのほうがいいね。奥に、お願いします」


 ランチの時間になりきれていない店内は、騒がしさも忙しさもない。

 対面で座った僕らは、すぐに飲み物を頼んだ。

 すべてこれも打ち合わせ済みだ。


「きっと家から40分はかかるよね、バスとかで移動なら」

「そうだね。うまく乗れればかなぁ。もう少し遅くなるかもね」


 スマホを見ると、陽真理さんからの返信も入っていた。


  もしかしたら、失踪したOGも、どこかにいるってことだよね

  学校の確率高いから、もう少し聞き込みしてみる

  会えたらいいなって思うんだ


「……また学校かぁ」


 ぼやいた僕に内海さんが笑う。


「水野くん、そんなに怖かったんだ」

「そりゃそうだよっ」


 あの恐怖をどう表現したらいいのだろう。

 僕は少し考えてみるが、これで理解していただけるだろうか。


「……えっと、その、たとえばだけど、内海さん、すんごく寒いところ、北海道の真冬とかイメージしてみて。……で、今の格好で立ってたらどうなる?」

「めっちゃ寒い」

「よね? 顎とかガクガクするし、体も縮こまるよね」

「なるかもしんない」

「そんな感じで、今、寒さを全身で浴びているのをちょっと想像してほしいんだけど……」

「……ふん」


 内海さんはわざとお冷のグラスを手のひらに当て、寒さを感じているようだ。


「それが、恐怖に変わった感じ」


 僕が言うと、パッと手を離した。


「は? え? ツラすぎない?」

「そういうこと」


 ホットコーヒーが届いた。

 夏なのに、と思うが、冷房が効きすぎる店内では、温かい飲み物の方がいい。

 ありったけのミルクと砂糖を加えた内海さんとは真逆に、僕は何も入れないコーヒーを啜っていると、スマホが震える。


  どこにいるのー?


 裕真が到着したようだ。

 だが想定より、早い。

 内海さんが立ち上がり、手を上げた。

 腰を下ろしたことから、内海さんに気がついたようだ。


 そのまま内海さんは鞄を肩にかけ、僕の隣へ移動してきた。

 飲み物までずらした内海さんを僕は三度見すると、返事のように内海さんが睨んでくる。


「向こうの話、聞くんだよ?」


 なるほど。

 男女、で分けるわけではなく、会話の内容で分けるわけですね。納得しました。

 僕は「うん」と返し、裕真が向かいに座るのを待つことにした。

 裕真はおしゃれなトートバッグを揺らしながら、僕らの並びににっこり微笑んで、親指を立てる。


「いい感じじゃん」


 僕の顔を見ていう裕真に、今度は僕が睨んだ。


「色々、聞きたいので、こっち側に並んでるんだよね」


 理由を伝えるが、「そう?」と笑って、裕真は腰をおろすと、メロンソーダを注文した。

 まるで昨日のことを忘れたような受け答えに、僕の胃がぎゅっと縮む。

 どっちが本心か、と思ったが、きっとどちらも本心なのだと思う。

 だからこそ、恐ろしいと思ってしまう。変わり身が早いからだ。

 信用しても、すぐ裏切られるのなら、距離をあけておいたほうがいいに決まっている。

 僕が注意深く裕真を観察していると、裕真は表情を消した。

 顎に手を添え、うなるようにつぶやいた。


「……どっから……」


 言いかけて、お冷を飲み、裕真は姿勢を正すと、僕らの目をしっかり見つめる。


「結論からいうと、クラスの昌平と哲哉が、昨日からいない」


 トートバッグから取り出したのは、タブレットだ。

 そこに出されたのはスクショになるのだが、僕らは目を見張る。


「これは、最近のクラスのやつとか、他の学校のSNSなんだけど……今、ドッペルってタグが流行ってんの知ってる?」

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