第七十話 一八はエグかった
一八は右腕をさっと上げる。吽形は合図に従って『恐れの術』を行使する。
「――うぁあああああ。やめっ」
一八は右腕をさっと下げる。吽形は恐れの術を解く。その度に、松任谷の股間の染みは大きくなり、更に臭みも増していく。
『なかなかエグいですね。一八さんって……』
(褒めないでくださ――)
『褒めてませんよ』
返答に変化が感じられない。一八は右腕をさっと上げる。吽形は合図に従って『恐れの術』を行使する。
「――うぁあああああ。や」
一八は右腕をさっと下げる。吽形は『恐れの術』を解く。その度に、松任谷の股間の染みは更に大きくなり、更に臭みも増していく。
松任谷はなかなかしぶとい。一八は右腕をさっと上げる。吽形は合図に従って『恐れの術』を行使する。
「――うぁあああああ」
一八は右腕をさっと下げる。吽形は『恐れの術』を解く。その度に、松任谷の股間の染みは更に更に大きくなり、更に更に臭みも増していく。ついに地面にまずいものが垂れてくる。
(もう、いい加減にしてほしいんですけど……)
一八は右腕をさっと上げる。吽形は合図に従って『恐れの術』を行使する。
「――うぁあああああ」
一八は右腕をさっと下げる。吽形は『恐れの術』を解く。その度に、松任谷の股間の染みは更に更に更に大きくなり、更に更に臭みも増していく。ついに地面にまずいものが垂れてくる。海老反りになってびくんびくん痙攣まで始める。
『そろそろさ、喋っちゃいませんか? 誰が誰を殺したんですか?』
「……俺が、いえ、私が、八重寺、絵梨佳、を、殺し、ました」
(ついに自白)
『しましたね。長かったです』
カセットレコーダーの形をしたボイスレコーダーを持ち上げる。再生ボタンを押した。
『……俺が、いえ、私が、八重寺、絵梨佳、を、殺し、ました』
『一連の会話は全て録音してある。お前には最後にやらなければならないことがある。それを飲むなら、二度と悪夢を見せることがないよう、約束しよう』
「しますしますもうごめんなさい……」
涎、涙、失禁と、コンボでダダ漏れになっている松任谷響。
『もし約束を違えたら、どこにいてもお前を探し出し、悪夢を見せる。これは変わらない。いいな?』
「守ります。だからお願い、やめてください……」
『ならば、今日の十八時、会見を開いて、お前が八重寺絵梨佳に何をしたのか? 何のために手にかけたのか? それを懺悔するんだ。いいな?』
「守ります。だから、あれだけはやめてください……」
一八は松任谷の手足を自由にし、屋上へ出て行く。
(松任谷は一体、何を見ていたんでしょうね?)
『さぁ? ワタシにはわかりかねます。ですがおそらくは、一八さんの伯母御さんに係わることだとは思うのですが?』
(とにかく、あ、そうだ。『追跡の術』でしたっけ? あれって)
『大丈夫です。あの男の身体にマテリアルで作ったマーカーを埋め込んであります。こちらで除去しない限り、どこへも逃げることは叶いませんので』
(こっわ)
『とにかく、十八時を待ちましょう』
スマホをみると、十二時前になっていた。
(そうですね)
一八はスマホを両手の親指でぽちぽちぽちぽち。
『お姉ちゃん、こちらミッションコンプリート。十八時前あたりから、テレビの見えるカフェが確かホテルの一階にあったので、そこで四人でお茶を飲みましょ?』
送信ボタンをぽちっと推す。
そのまま吽形は、東京プリンセスホテルの手前まで飛んでいく。
地面に降ろしてもらった一八は、歩いてホテルまで戻る。
「阿形さんはホテルですか?」
『いいえ、違いますね』




