第六十六話 一八からの報告
「絵梨佳伯母さんの事故。あれの犯人らしき存在が見つかったんだ。この写真を見て。渋谷のセンター街から更に奥に入ったあたり。そこに二十階建てのビルがあって、一番上に『ヒビキ・エージェンシー』って名前が入ってる。そこの二十階に社長室があって、その男、松任谷響が確認できたんだ」
「え? どうやって確認したの?」
「んっと、平たく言えばね、『隠形の術使』使って飛んでもらって外から覗いてきた」
「ま、大胆っ」
『そうですね、呆れるほどに大胆で手際が良すぎます。本当に十二歳かと疑いますね』
「褒めても何もでませ――それでさ、お姉ちゃん」
「うん? いえ、はい」
思った以上に一八の目が真面目だったからだろう。
「もし、黒だったらさ、どうしたい?」
黒だったら。イコール『八重寺絵梨佳を殺すつもりで事故を起こした』なら。そう言う意味のはずだ。
『千鶴君。その男を、闇に葬ってやっても構わないんだぞ? 我々は対象を塵に帰すことなど容易いのだからな』
『あなた……』
「そんな、闇に葬るだなんてもったいない。そいつにはさ、記者会見をしてもらおうよ。自分の手で自分を地獄にたたき落としてもらったほうが、お婆ちゃんもきっと胸のつかえが下りると思うんだよね」
千鶴は笑顔だった。だが彼女は泣いていた。頬を伝った涙が、そう語っていた。今まで抱えていた沢山のものがそうさせたのかもしれない。
「あのさ、阿形さん、吽形さん」
『なんだ?』
『なんでしょうか?』
「この男が、『何か違う生命体に操られている可能性』とかを調べることは」
『あぁ、可能だ』
『そうですね』
「それなら自白させた上でそれを調べてもらえますか?」
『そうしよう。それが一八君と千鶴君の願いなのだったらな』
『それでしたら、一八さんに『偽装の術』を使えばいいかと思います』
「『偽装の術』?」
『あぁ、「隠形の術」と仕組みは同じだ』
『あくまでも、ワタシたちの生体素材を使用してワタシが姿形を変えて真似る。慣れてきたら一八さんが真似る。そういう術です。ではそうですね、こういう感じでしょうか?』
一八の身体全体のラインが一瞬歪んだかと思うと、見覚えのある姿になる。身長百八十センチ。細マッチョでロン毛の、優しげな中年男性。
「え? 宝田、さん?」
「え? 僕、宝田さんになってるの?」
いつの間にか、一八は宝田大五郎になっていた。身長も体格も全て変化している。もちろん、服装も今日見たそのままであった。
「もう、いいでしょ? 戻してもらえますか?」
『はい。一八さん』
するとすぐに元へ戻っていく。あくまでも一八の外側を吽形が包み込み、生体素材を利用してSFXメイクのような偽装をした。そういうことなのである。
「そういうことなら、お姉ちゃん。ごめんね」
「何が?」
一八はある写真をノートパソコンに表示させる。それは千鶴にもなんとなく理解できる人物のものだった。
「これに偽装してほしいんだ」
『……うん。大丈夫です』
『なるほど。これは有効かもしれないな』
打ち合わせは終わり、夕食は弁当にした。一八の部屋には簡単な調理器具とキッチンがついており、そこでスーパーから買ってきた海老を軽く調理する。それを阿形の夕食に。吽形と一八、千鶴はルームサービスを取り、シェアして色々なものを食べた。
特にここのエビチリは絶品だったと吽形は言っていた。いずれ作れるようになりたいと、一八は思っただろう。
←↙↓↘→
『昨日同様、オレは千鶴君に着いていよう』
「阿形さんがね、見守ってくれてるから凄く気が楽なの。ただ、仕事は慣れないけどね」
そう言って苦笑する千鶴。
「じゃ、僕たちは可能な限りだけど、決着をつけてくるね」
『一八さんのことはお任せください。千鶴さん』
「はい。お願いします」
『ではあなた』
『あぁ、共に頑張ろう』




