第四十五話 もう一人の異星人
公設市場で買ってきたのは、冷凍して解凍しても美味しいものを選んでもらった。保冷剤と氷をびっしり入れてもらったので、暫くは大丈夫。十キロくらいの重さになってしまったが、なぜか一八は楽々持ち上げられた。
『おそらくはワタシたちの影響なのでしょう』
吽形はそう言っていた。
明日は海が荒れそうなので、直行便が動かないとのこと。一日遅れていたら、危うく名護に一泊。または時化が終わるまで那覇で宿泊なんてことになるところであった。
現在の時間は午後六時。無事戻って来られたが、時間が時間であり直行便もないため、京子は近場に泊まることになった。この家は一階に店舗スペースを作ってしまったがために、客間がないのである。
「それでは一泊してから、午前中にまたお迎えにあがりますので」
「えぇ、ごめんなさいね」
「いえ、明日また来るより楽ですから。ではお疲れさまでした」
笑顔でホテルに向かう京子だった。
ちなみに、今回起きた事件は事故と報道され、誰が撮影していたかは明かされていない。この指示は二人の祖母である静江のものであった。結果的に何もなかった。余計な心配をさせることもないだろう。例えば、静江の龍童プロモーションに対する何らかの思惑はあったのかもしれない。
「お帰り、千鶴ちゃん、一八くん」
隆二が迎えてくれた。
「ただいま父さん。ちょっと僕はこのまま冷凍ストッカーにね」
「何を持ってきたんだい?」
「タコさんたちのごはん。海老だよ。公設市場で沢山買ってきたんだ」
「なるほどね。一八くん専用に、赤い冷凍ストッカー用意してあるから、そこに入れるといいよ」
「ほんと? ありがとう、お父さん」
「いえいえ、どういたしまして」
一八は店舗奥のストックルームへ入っていった。
「千鶴ちゃん、おめでとう。驚いたよ」
「ありがとう、お父さん。ほとんど成り行きだったんだけどね」
「成り行きでエダボウのイメージキャラクターとか、凄いと思うけどなぁ」
「普通よ、ふ・つ・う」
「ほんと、うちの子は千鶴ちゃんも一八くんも、普通じゃないからね」
「そうね、うちの子たちは普通じゃないわ、特別だものね。千鶴」
そう言って抱きつく日登美。千鶴も嬉しそうであった。
ごはんが出来たら呼ぶから、部屋で待っていなさいと言われる。一八も千鶴も一八の部屋へ。部屋に入ると水槽へ、千鶴がべったり近づいていく。
そこには、浮かべられた樹脂製のボールに入った蒸し海老を、触手を伸ばしてつまんでは口に。海老の周りを海老色にして怠惰に味を楽しんでいる阿形の姿。
『あぁ、なんていうか申しわけありません。一八さん』
(あははは)
『あの人はたまに、サボり癖というか、こういう面もあるのです』
そんな阿形をじっと見ている千鶴にまったく気づいていない様子。
「阿形さん、こんにちは」
『え?』
一瞬真っ黒になって姿を現す。阿形の驚きは、一八には聞こえるが千鶴には聞こえない。
「阿形さん、阿形像の格好してくれる?」
『え?』
『あなた』
『吽形か。どどど、どうなっているんだ?』
阿形は、何やら支離滅裂な状態に陥っている。
『あのねあなた、その、とても言いにくいのですけど』
「うん。お姉ちゃんには、バレてるんだ」
『な、なんだとぉ?』
「あら? 旦那さんだけあって、野性的な口調なのね?」
『そそそ、そんなこと、ありませんけど?』
一八たちとは反対側を向いて誤魔化しているように見える。実に人間らしい阿形だった。実際は異星人なのだが。
「それでさ、吽形さん」
千鶴は水槽の前に椅子を持ってきて座っている。話しやすいように、右手を水槽に置いて、二人に触手で触ってもらっていた。
ちなみに、部屋の鍵はかけてあって、着替え中の札を出してあった。もちろん、千鶴もである。
『どうした? 一八君』




