第二十七話 お姉ちゃんのリクエスト
翌朝、一八は起きてすぐに海老を解凍し、吽形へ提供する。細かい味付けができなくて申し訳なく思っていたが、彼女は現状満足していると言い、少しだけほっとした。
一八が質問。吽形たちは故郷の星で、どのような食事を摂っていたのか。すると彼女は、触手でつまんだ海老をしげしげと見ながらこう言った。
『そうですね。形はショートブレッドやちんすこうに近いと思います』
一八がスマホで画像を見せるとそっくりだと言っていた。
『ワタシたちのいた星の魚介は、この星ほど見た目が良くなくてですね。成分を抽出したものを固めたものがポピュラーでした。工場で量産される分、味付けはシステム的に無難なも。いわゆる無味無臭になっていました。なので』
(無味無臭って、……はい)
『この星に降りたって、初めて食べた魚が美味しかったのを覚えています。先日食べた海老も、この海老も、食感がよくて、匂いも味も申し分ありません。一八さんに出会えて、幸せだとあの人も言っていました。もちろん、ワタシもですよ』
吽形は饒舌に語ってくれる。少なくとも、魚介類、甲殻類がベースになったものを食べてきたのは間違いない。だがやはり、その地によって見た目が違うのは致し方なしと言えるだろう。
もし、現在獲られているものが深海の魚たちのようなものだったら、昔の人の食指が向いたかはわからない。だが、地域によってはグロテスクに見えても実は美味しいという魚もいる。案外わからないのかもしれない、一八はそう思ったのである。
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一八たちの朝食が終わって、かねてから行きたいといっていたテーマパーク。一八はてっきりKDRこと木更津ドラマティックリゾートだと思っていたのだが、なんと。
「――いけーっ、がんばれーっ」
「がんばれーっ」
ステージの一番前、プレミアム席の一番端。彼女よりも小さな子供たちに遠慮したのか、ここなら声を上げても迷惑にならないだろう。そういった気遣いをしつつ、小さな子供たちに混ざって歓声を上げている千鶴。彼女が遠慮しなかったからか、一八も声を上げて応援する。
千鶴がどうしても行きたいと言ったのは、有明ドームタウン内の、有明遊園地にあるステージ。現在日曜朝八時半に放映されているヒーロー番組。『コスモドライバー絶牙』のヒーローショーだったのである。ちなみに一八も一緒に見るほど、大好きな番組である。
千鶴は、巳波綾香指令という、助演キャラクターの大ファンであり、なぜかヒーローショーでその女性俳優が、司会進行までやるという贅沢なステージだと知っていたからだろう。見逃すわけにはいかないと、何週間も前から予約していたガチぶりであった。
ヒーローの着ぐるみを着た俳優――彼も主演の俳優であった――はおざなりに、司令役の女性俳優に両手で握手、一緒に撮影までお願いする。握手チケットと撮影チケットをきちんと購入して、子供たちと一緒に並んでいた。
「応援しています。頑張ってくださいね」
「あ、ありがとうございます」
ややドン引き気味に、引かれてしまっていたのは仕方のないことなのだろう。何せ、中学三年生は一人しか参加していなかったのだから。一八は、主人公を演じる俳優も大好きだったが、千鶴のはしゃぎぶりについ、遠慮をしてしまったのである。
撮影してその場でスマホに転送してもらい、写真を見ながらうっとりしつつ、ソフトクリームを食べている千鶴。一八はこぼれてしまわないか、サマードレスにつけてしまわないか心配しつつハラハラしながら見守っていた。
ソフトクリームを食べ終わった後だった。一八がゴミを捨ててきて、千鶴が立ち上がろうとしていたとき、
「あの、お忙しいところ申し訳ございません。私、名を斉藤真奈美と申します。よろしければ、少しだけお時間をいただけないでしょうか?」




