かいてきなたび 27
「他にもおかしなことが有りました。それは、この近辺には『ジヘン』という林檎の産地が有るにも関わらず、何故か林檎を荷台に載せていた事です。」
樽に林檎がわざわざ詰められ、遠くからわざわざ運ばれていた。しかし、この近辺には林檎の産地が有る。
鮮度を落とした林檎を鮮度の良い産地直送林檎と並べて売るかね?
否だ。そんな事をわざわざするというのなら行商人を辞めた方がいい。
善意の商人であるにしても、この行為は矛盾しかない。矢張り行商人を辞めた方がいい。
「そして、先程の盗賊の襲撃から逃れる際、馬車を軽くするために荷物を捨てましたよね?」
「そうさ、さもなきゃ逃げられないからね!」
赤毛が堂々と答える。
「何をです?」
「積み荷さ!」
「中身は?」
「そんなモン…………野菜とか、テキトーなモンさ!」
しどろもどろになり出した。
「先程、逃げる直前に馬車の周囲を見ました。
捨てたと言いましたが、そんなモノ、ありませんでしたよね?」
シェリー君、よく見ていた。及第点を上げよう。
まぁ、『私の視線が周囲をこれ見よがしに見回していたから気付いた。』というのも有るだろうがね。
『わざわざ荷物を別の場所に捨てに行った。』というのなら、荷物が見えなかっただろうが…………ハハハハハ、そんな愚かな事、あの状況下で誰がするというのかね?
「馬車の周りには樽や野菜の類は落ちていませんでした。しかし、あの後から馬車の速度が上がり、上下の揺れが激しくなり、車輪の音も変わりました。
馬も今までより活き活きとしています。
おそらく、馬車が軽くなったのです。しかし、荷台の中を見て分かる様に、特別何かが減った形跡も有りません。
つまり、荷台以外に何かを積んでいて、それをあの時捨てた。という事になります。
しかも、それは目に見えて荷台に積まれていない、隠された荷物。
わざわざ隠しているのです。つまり、先程までこの馬車には見つかっては不味いものが大量に積まれていたのではありませんか?」
あの時、馬車の周囲には瓦礫や廃材、砂嚢のようなモノや石が転がっていた。
「アタシらがその時ヤバイブツを捨てたってのかい?何を?証拠でも有るのかい?」
大男が完全に沈黙し、小男は御者席で動けずにいる中、赤毛女だけがシェリー君に挑む。
しかし、無駄だ。
「それが何だったのか?その証拠は有りません。
が『それが何処に隠されていたか?』は解ります。そして、それと同じものをこの場にお出しできます。」
それを聞いた途端、赤毛女の顔が真っ青になり、同時に、焦点の合っていなかった目が一瞬、天井の幌を見た。
慌てて視線をあちこちに向けるがもう遅い。
というか、カマかけをするまでも無く、シェリー君は知っていた。
「盗賊の襲撃の時、馬車の周囲には傷一つ有りませんでした。
しかし、馬車の内側、幌の部分だけ、解れていました。」
私は盗賊を相手にした時、馬車に賊を近づけない様に細工をしておいた。
そして、40人の賊は私の望み通り、確実に馬車を襲う事無く私に弄ばれた。
賊が馬車に傷一つ付ける事は絶対出来なかった。
賊が、馬車に傷一つ付ける事は絶対出来なかった。
『賊が』、馬車に傷一つ付ける事は絶対出来なかった。
そう言う事だ。
「今、天井の幌は縫われています。
どうでしょう?幌の糸を解いて見せて頂けませんか?」
「……………………………………」
「私を………信じさせて頂けませんか?」
ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト……………………………………………
「ガゥゥウ?」
馬車の音と熊の鳴き声だけが荷台に響き渡った。




