かいてきなたび 17
賊40人VS教授の圧倒的不利なハンディマッチ開幕!
「おいおい……何をする気だい?」
ボロ布の男がそう言ってヘラヘラしつつも警戒を僅かに強めた。
余程の間抜けで無ければおかしいと思うだろう。こんな少女が大の大人三人を掻き分けて前に出て、『馬車で逃げる準備をしろ』という趣旨の事を言っていたんだ。
何か有ると勘繰るのは当然だろう。
が、甘いな。
僅かに警戒を強めるでは不十分だ。
では、どうすれば良いか?
最大限警戒する?
違う。それでも不十分だ。
身の危険を感じて直ぐさま逃げるべきだった。
どちらにしろ、逃す気なぞ粒子レベルで存在しないがね。
「面倒だ。さっさと捕まえりゃいいだろう!」
賊の1人が痺れを切らしてこちらに向かって来た。
ヒュッ!
手に握られた石を投げつける。
しかし、賊はそれに対して体を反らして躱し、石は賊には掠りもしなかった。
「おっと。威勢のいい嬢ちゃんだ。だが外れだ。」
ニヤニヤと賊が笑う。
残念だな。大当たりだ。
「シェリー君、これからの君の人生、過酷な事ばかりであろう。そして、その過酷の中には一対多数という卑怯で理不尽な状況も有ろう。
が、しかし、そんな状況、理不尽な逆境下でそれを打破する方法が存在する。
今日はそれを教えてあげよう。」
「はい、宜しくお願いします。」
「宜しい。では、多人数を相手にする時の鉄則だ。
それは先ず、相手の陣営に混乱をもたらす事だ。
真っ当に考えて、一対多数ではどうしても分が悪いだろう。
多数が一つとなって動けばそれは単体の一つに比べて圧倒的な力を持つ。
もし、まともにやりあえば、一人を相手取るうちに他の数人に背後から強襲されて終わる……………………が、もし、その多数が烏合の衆であったなら……どうなると思うかね?」
「統率を失って……瓦解する。ですか?」
「その通り。今投げた石が、文字通りこの一体と相手を瓦解させる。文字通り………な。」
「教授……それは…………?」
シェリー君が私の言葉に首を傾げていた所で、それは起こった。
カラカラカラカラカラカラカラ………ゴロゴロゴロゴロ
「何だ何だ何だ⁉」「誰だ⁉」「地震?」
急に転がり落ちた廃墟の瓦礫に驚いた何人かがそちらに視線を向ける。
そこには瓦礫が有るだけ。廃墟が有るだけ。
そこは丁度賊の居ない場所だった。
…………カラ
小さな欠片が屋根から落ちて来た。
「何だ………驚かしやがって………」「良いからさっさと捕まえろよ。」
………………ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!
大きな石が転がる音がした。
しかし、今度は騒ぎ立てる声が聞こえる事は無かった。
メシメシメシメシ メシメシミキミキバキバキ バキバキミキッ!カラカラカラ
カラカラカラカラ…………カラ………………ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!メシメシメシメシメ
シ
(「何だ何だ何だ⁉」) メシミキミキバキバキバキバキミキッ!ドシャッ!カラカラカラカラ……………
バーン!カラカラカラゴロゴロ (「地震か?」)
ゴロゴロゴロ…………カラカラカラ(「地震………違う!地面は揺れていないぞ!」) (「何の音だ⁉」)
カラ…………カラ………………ゴロ!メシメシメシメシ メシメシミキ
(「何だいコイツは?」) ミキバキバキバキバキミキッ!(「落ち着け騒ぐな」)
ドシャッ!カラカラカラカラ……………バーン!バキャガラン!バキペキポキガシャーン!パキーン!
バキャガラン!バキペキポキガシャーン!パキーン!ドシンッ!
カラカラカラカラ……………バーン!バキャガラン!バキペキポキ
(「オイオイなんだよコリャぁ?」) ガシャーン!パキーン!
(「シェリーちゃん!」)
何が起こったか?
簡単な話だ。
文字通り、瓦解した。
廃墟の建物が屋根から、柱から、壁から、埃を被った家具から、ドアから、窓から…………………柱や梁から釘一本に至るまでの全ての建物が同時に、示し合わせたかの様に、倒壊を始めたのだ。
今の轟音の数々は建物が崩れる音、柱やドアが倒れる音、瓦礫同士が叩きつけられて弾ける音家具が砕ける音、そして……………………………………………
混乱する烏合の衆の、悲鳴に似た叫びだった。
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