モリアーティーの刃
教授に魔法使っても勝てる気がしない。
「教授、しかし、教授の仰っていた筋肉や目線の動きはこの中では見えませんよ?」
確かに、光の無い室内。
暗闇に慣れた状態で、辛うじて光る剣と相手の動きを見ていたのであれば、それは困難を極める。 しかし、私は先程から決してそれだけで避けていたわけではない。
あの暗さでは微細な変化を完全に観測するのは難しい。
だから私は、ある情報を視覚的情報よりも多く観測していた。
スッ
ダン
シュッ
背後から呼吸音、床を踏み込む音、そして、何かが擦れる音が聞こえる。
身を屈めた次の瞬間、
ヒュッ
今まで頭があった場所の空を何かが斬り裂いていった。
多く観測していた情報。
そう、聴覚だ。
音の反響で周囲を知覚する『エコーロケーション』の様な洒落たものではない。
動作前の呼吸音。
足を踏み込む時の破裂音。
手足を動かす時の衣服同士、衣服と体が擦れあう音。
剣が空を斬る音。
相手が音速未満で動くのならば捉えるのは容易い。
「相手は自分が有利だと慢心している。
そうすると剣が単純な動きをし始め、回避の難易度は容易くなる。」
「『見えないから』と投げ遣りな動きになる訳ですね。」
「その通り。
挑発したこともあって動きが乱暴になっただろう?」
スッ
ダン
シュッ
呼吸、踏み込み、服の摩擦音。
壁際に避けて避ける。
ヒュッ ガン!!
剣が壁にぶつかる。
フン!
ドタン
ザッ
動きが少しずつ荒くなっていく。
壁際の私目掛けて剣が振り下ろされる。
ガキッ
「ン゛~~~!!!!!!!!!!!!!!!!」
遂に怒りで声が聞こえた。
「ミス=パウワン?どちらにいらっしゃるのですか?
先程から殺すだの何だの随分な物言いをなさっていましたが…あれは口だけでしょうか?
一切殺される気配が無いのですが、居られます?」
煽りに煽る。
力任せな脳筋ならば安い挑発で十分だ。
「下民ンンンン~~~~!!
高貴なこのパウワンに!教師に向かってその様な口を!」
簡単に乗せられる。
他愛無い。
「あなたも元はただの傭兵一家。私と同じ。
そもそも、生まれなど何に成るのです?
たかが身分程度で思い上がるなど滑稽極まります。
血統なぞあくまでもただの一変数。
貴族だから自分が高貴だの、素晴らしいだの………根拠としては信頼性も妥当性も皆無。
今すぐ棄却するがよろしい。」
「キィィィィィィィィィイイイー~~~~!!」
「そして、『教師に向かって』と仰っていましたが、残念ながらあなたは教師と呼ぶに値しません。 教え子を唆して人を襲撃させる。
剣の恐ろしさを知りながら、剣を無抵抗な人に振りかざす為に与え、今まさに、無抵抗な、丸腰の人間に向けている。
これのどこが教師でしょう?」
「黙れ!!」
血管が浮き出るのが音だけでも解る。
「教師とは、『呼ばせるもの』ではなく『呼ばれるもの』。
他者から敬意を向けられ、呼ばれる人間だからこそ教師足りうるのです。
剣を振りかざし、権を振りかざすあなたは教師ではない。ただの愚かな暴君です!!」
最早脳筋は爆発状態。
呼吸音が耳を塞いでも聞こえそうだ。
「お前には最早用はない!!」
「同感です。私はあなたにそもそも用がない。」
剣術なら私が教えられる。
「……肉体強化、『30倍』!」
闇の中から熱が伝わる。
やっと使った。
昼間にやり過ぎてしまったから、もし使わなかったら別のプランを使わねばならなかった。
「30倍か…それなら良いだろう。」
「ちっとも良く有りません!!
逃げましょう!!早く!!30倍なんて、丸腰の状態で受けたら無事ではすみません!!」
「シェリー君、私は君に『少なくとも今回は刃を振るわない』と約束した。」
「しましたしました!!早く逃げないと!!」
」愚かなガキが!「
脳筋が構え始めた様だ。
「しかし、私の刃の如き知性はその『刃』に含まれず、私の預かり知らぬ刃が振るわれてもそれは約束破りでは無かろう?
私はそう解釈した。」
「それで良いですから逃げましょう!!」
」コロす。殺す殺ス殺す!「
よし。
「ならば問題はない。
私はここに立ってただ相手が自ら死地に飛び込むのを待つだけだ。」
そう言って私は熱の正面。
教員棟を背後に立った。
今逃げても何にも成らない。
」死ねシネシネシネッ「
バキッ
脳筋が駆け抜け
鮮血が飛び散った。
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