当日譚
暗闇の宿舎での冒険です。
前日の夜。
正確に言えば、今日の明け方。
私は彼女の身体を借りてベッドを抜け出した。
無論。消灯時間後の、まだ暗い頃にそんな事をするのは校則違反だ。
慎重に行ったさ。
錐を持って。
明かりは如何したかって?
無論、無い。
外を出ればそこは完全なる闇の中。
手を伸ばしてもその手は見えず、自身の身体も闇に覆われている。
瞼を開けても閉じても景色は変わらない。完全なる闇。
『では如何やって外を歩いたか?』だって?
日中に覚えておいたのさ
目的地と自分の部屋の位置関係、道中の道の長さや幅といった間取りを正確に覚え、更に自分の歩幅を覚えておけば闇の中でも音も無く動ける。
日中、足音を立てていたのは無論、意図していた。
シェリー君には悪いが、床の状態を確認したかったからね。
お陰で床の損傷の激しい部分を特定出来た。
今回の目的地はその損傷の激しい部分の中でもある条件を満たす場所だった。
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無音のまま、目的地に辿り着いた。
シェリー君の部屋と階段の中間部。
誰かの部屋と部屋の間だった。
手に持った錐を床の木材の間に刺し入れる。
ここでポイント。完全犯罪ならば床の木材の隙間の位置まで覚えておかねばならない。
錐の先端で床を突いて隙間を探してしまえば、新しい傷痕が残る。
例え後で木材が砕けて証拠が無くなるとしても、もし、木材が丁度傷の部分を残して破壊された時のことを考えて傷は残さないのが定石だ。
無音だが、差し込んだ錐を斜めにして、木材をてこの要領で浮き上がらせる。
少し。ほんの少し。
メキメキと音を立てない様に、慎重に、損傷の酷い部分を錐で持ち上げるようにして損傷を悪化させる。
丁度、貴族令嬢たちの体重では床を踏み抜かず、しかし、豚嬢の体重で乱暴に足を踏み鳴らせば砕けるように。
ピンポイントで豚嬢だけが引っかかる様に。
目的の場所の条件。
・シェリー君の部屋から少し離れた場所である事。
・床が劣化している場所である事。
・劣化部分が砕けた時に人一人が嵌る落とし穴のような状態になる事。
自然な破壊であるかのように見える場所で、
シェリー君とは無関係の場所で、
それでいて、彼女の痴態とクッキーを目撃する人間が増えるように豚嬢が一人で脱出できない様な穴が出来る場所が必要だった。
(終わった。)
豚嬢が後で天井からの液体に激怒し、ここを通った瞬間……………
教授はまたしても音も無く、廊下を歩き、部屋へと戻って行った。
「これが二つ目だ。
あとは知っての通り。まんまと豚嬢は損傷の激しい、細工がされた床を踏み抜き、醜態を晒し、証拠隠滅迄の時間稼ぎに引っ掛かり、証拠の無い、無罪の君を疑い、逆に処罰の対象となった。という訳だ。
そんな細工をしているとは、気付かなかっただろう?」
シェリー君がポカンとしている。
「『基本その3:敵を騙すという事は味方を騙すことが大前提だ。』
味方も騙せない様では敵は騙されてはくれない。」
「あの…………………教授?」
「何かね?」
「そんな魔法以上の難易度技巧と行動。100人どころか世界で出来るのは教授位のものですよ?」
唖然とした表情のまま、そう言った。
もし、目撃者が居ても、幻覚だと思うでしょうね。
真夜中、少女が錐を持って徘徊or地面を抉っている
まごう事無きホラー案件!
本当はトンカチも持たせる予定だったので、もしそうだったらホラー度がもっと加速しているところでした。
※良い子も悪い子も………兎に角、誰であろうとこんな真似をしないで下さい。
責任は取れないし、あくまでこれはフィクションですから!
現代でこれをやったらバレるし犯罪です!




