詮索無用
「なー…シェリー嬢?
貴女程の実力者であれば我々を仕留めあそばす事も御出来になられたのではアリマセンノデスカナァ?」
痩身長身が残骸となったゴーレムを見て凍り付いていた。
まぁ、恐怖で震え上がっていたのだ。
予想外のゴーレムの歓迎という事態の対応遅れの汚名返上の為に、シェリー君は割とトップスピードでゴーレムの大半を駆逐した。 それは、人質としてはあまりにも強過ぎる強さだった。
石人形の頭を1秒あたり2つ砕ける人間が虚弱貧弱矮小な人の頭蓋骨を5つ粉砕するのに掛ける時間は………計算するまでもあるまい?
そして、そんな強過ぎる人質を取っていた自分が、今まで直径1㎜の綱渡りを行っていたと気付いて震え上がるに至る訳だ。
「…まさか、立て籠り犯を始末する為にわざと捕まった特殊工作員とかでは……無いかにー。」
「ぬぅ………………………………………………………………………私より強い。」
「ねぇねぇねぇ、あの魔法誰に習ったの?
学校の先生?違うよね?明らかに実戦、しかも対魔物、対複数、対長期戦を大前提にした技術だもん。一体何処の傭兵、うぅん、何処の冒険者に習ったの?」
「嬢ちゃん、そこらの御行儀良いだけの小娘じゃないのー。
人質にされた時の落ち着き方といい、狙撃を察知して避けた事といい、今の明らかに闘い慣れした、怪物に足を踏み入れた達人みたいな動きといい。
ホント、何者かのー?」
良い感じに疑いを向けられている。
あれだけ暴れれば怪しまれるのは必然。悔しさで汚名返上を急ぎ、詰めを若干誤ったか?
「先程も言ったように、これは以前に里帰りをした時に、出会った方から教わりました。」
「それは、1日や2日……イヤ、何十年の歳月を掛け、血を吐く思いで習得に至る技術。
おいそれと教えて貰えるものじゃ無いし、習得出来る物でもない。
それは俺でも解るんだがナァ。」 疑いを更に強める。
他の面々もそれに続く。
まぁ、当然だ。
記憶喪失の私でさえ、『これが女学生のやる事か?』と違和感を覚える級の事をやっている。全く、誰がこんな善良な女学生に破壊力&戦闘力満載の『モリアーティー戦闘術』を教えたのやら?
けしからん!厳重に注意せねば!
「ハァ……、ここまで来れば仕方ありませんか。」
良く知る私から見れば大袈裟に、それ以外の人間から見れば自然に、観念した様な顔でシェリー君が肩を落とす。
「ここから話す事は口外無用で願います。
実はこれは………ある方の技法の一部を直接、特殊な方法で伝えられたものなのです。
ただの口伝えでは無く、実感を伴う技術として私はある人物の経験をとある経緯で受け継ぎました。
だからこそ、私は今、こんな事が出来る様になっています。」
嘘は一切無い。
『私がシェリー君の体を動かして先ずやって見せた後、シェリー君にそれを再現させる。』という方法で私はシェリー君に様々な技術を教えている。
これならば同じ肉体を使って行うが故に、教師と生徒の肉体差による指導のロスが無い。更に、一度私が動かす事でシェリー君の肉体に動きのコツを掴ませる事が出来る。
「で、その方法は何かにー?」
「ヌゥ……口外無用と言っていたが……何故だ?」
「ねぇねぇねぇ、それって、口にするのは不味いの?」
「成程のー。
その技法、どんな技法かは知らないが、その方法を使って他人の記憶や経験を投影してこんな女の子を達人級に出来るのであれば……その方法や経験を欲しがる馬鹿者が居ると。
新兵を達人にして兵器利用をしようとする奴が居ると……そういう訳で良いのかのー?」
コクリ、シェリー君が肯定した。
「仰る通りです。
この技術は基本人目の有る所では今の理由から使えません。更に当然、伝える為の技法も伏せています。
さもなければ…………。」
無言になる。その先は言わずとも5人は解ったらしい。
もし、ロクでも無い連中がそれを聞けば、シェリー君だけでなく自分達も無事で無いと解ったらしい。
「ですから、皆さん。口外無用でお願いします。」
「ナァ、解った。」
「黙っとくにー…。」
「ヌゥ……墓まで持って行こう。」
「ねぇねぇねぇ、誰にも言わないよ?」
「………口外無用って…………ほぼ脅迫じみとるのー。」
あぁとも。
嘘がバレそうになった時、如何にかする方法。それは簡単。
それを厄ネタだと認識させて、追求し難くさせる。
下手に口を滑らせれば命の危機さえ起こり得る事象に、首をわざわざ突っ込む輩などおるまい?
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
大広間から先に進む為の通路が開かれた。
「さぁ、行きましょう。」
5人はそれに無言のままついて行った。
カンッ カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ…………
石がコロコロと転がる音が迷宮に響いた。
話の進みや更新が少しぐだついて申し訳ありません。
頑張ってはいますが、少し頻度などがブレるかもしれません。御免なさい。




