回想
シェリー君と5人の立て籠もり犯は応接用のソファに座っていた。
窓からは空が見え、入り口から見た両側の壁には大きな棚が鎮座していた。
片方には下段に小さな冊子、中上段には大きな事典がそれぞれ隙間無く詰められた本棚。もう片方には、学術大会の成績優秀者に贈られたトロフィーや赤い色のオブジェや国から貰った賞状や盾が飾ってある棚が有る。
窓側には一つ机が有り、その上には雑多な資料や本が幾つか有る。
学園の最上階角部屋に、この物置を何故配置したのやら?
「ここまで私は来てしまいました。最早お互い後には退けません。
ですので、出来る限りの情報を開示願います。」
シェリー君が強く迫る。
この学園には誘拐の為の人質以外に価値有るものはまともに無い。
だというのに何故この男達は人質そっちのけでこの学園を探索したのか?
それは人質以上の価値をその探索対象に見出していたから。
そこまでシェリー君は分析し、目的を聞き出そうとした所で狙撃の邪魔が入ってしまい、うやむやになって現在まで至っている。
「それを何でお前に……」
「ここまで来て黙秘とは言わせません。
私とて命の危機に曝されているのです。
貴方達の探し物が終わらない限り、私が解放される事は無い。ならば協力するのが得策。
前にも言いませんでしたか?」
シェリー君は今、5人の立て籠もり犯に拘束された人質である。一応。
しかし、前の狙撃の件から徐々にその立場が壊れてきて、さっきの煙幕と閃光の細工をする頃には最早立て籠もり犯の頭と化していた。
「ったく………………もう、言うしか無いのかナァ。」
「……………ここ迄なっちまったんだし、もう良いんじゃないかニー?」
筋肉質が観念した顔で長身痩身にそう言った。
長身痩身が他の面々にアイコンタクトで同意を求める。
他三人も頷く。
それを見て長身痩身が観念した様にがっくりと肩を落として項垂れた。
「………………解った、解った、じゃぁ、少し話そうかナァ……………」
ソファに深く座りなおして話始めた。
立て籠もり犯達の正体。それは元々、この学園の遥か北方にあるバーリア領の片隅で細々と暮らしていた一般市民であった。
皆、面識が無く、共通して特に犯歴が有る訳でも無く、こういった荒事が得意な人種でも無い。
見た通りの素人集団である。
ただし、最近、皆共通してトラブルに巻き込まれて大きな借金を抱えてしまったという共通点が有り、同時に、返す当てが無くて途方に暮れていたという共通点も有る。
そんなある日、明日には生きているか死んでいるかの瀬戸際に立たされた彼らの目の前に怪しい輩が現れた。
ドワーフの様な、小人だった。
「お金に困ってる?
ふぅむ……………貴方、こんな話を知っていましテ?
『かの有名なアールブルー学園の敷地内にはお宝が隠されている』という噂。
宝の総額は屋敷一つ建って一生遊んで暮らせるだけ。しかも警備は学校だからザルも同然、人質は取り放題のより取り見取り。
確かな筋から来た情報なのだけど、どう?乗ってみなイ?」
別々の場所でそう言われた男達には最早選択肢は無く、悪魔の囁きと知りながら5人は今、この学園を襲撃していた。




