ウィリアム・テラーズ
シェリー=モリアーティーと5人の立て籠もり犯が狙撃の難から逃れ、あれやこれやと話している正にその時。
宿舎のとある一室では二人の男達が話していた。
一人は未だ20歳そこそこの若人。目がキラキラ輝いた金髪の若人だった。
もう一人はと言えば、ダークブラウンの短髪に気怠そうな、半分眠ったような目の30代そこそこのまばらに顎髭のある男だった。
「当たりましたかね?」
隣でレンの奴が興奮気味に体を乗り出そうとする。
「馬鹿、狙撃手が姿見せようとすんな。」
アンニュイな、というか、だらけ切った声でたしなめながら頭をペチっと叩く。
「それに、当たっちゃいない。その前に倒れてただろ?ありゃ。
コレが本当に掠りでもしてたら、普通にアッチは血塗れだってーの。」
そう言って手に持った筒に目をやる。
1m強の金属製の筒に持ち手や色々な付属品の付いた、見る人が見なければ何なのか解らないシロモノ。
筒の一方、自分の方の穴は塞がれ、持ち手と引き金が付いている。先端に近い方には両手で持てるようにもう一つ持ち手が有り、上方には標的に当てる為の倍率可変の照準装置が有る。
直径4㎝の鉄製の杭を魔法で急激に加熱させた水、つまりは水蒸気の爆発的な推進力で吹き飛ばし、命中した対象の肉を抉り、骨を砕く。文字通り破壊する為の飛び道具。
本来大型の熊や魔獣の類を相手にする事を前提としたソレの名は『ウィリアム・テラー』。
牽制や威嚇用では無く、確実に相手を始末する為の凶器である。
「にしても、妙な依頼っすね。」
レンが首を傾げる。
「『アールブルー学園に立て籠もった奴等を始末しろ。別に生かそうが殺そうが構わない。
人質の生死も問わない。』なんて依頼俺達に押っ付けて。
で。そんな風に偉そうに言いながら自分達はガキの御守りだなんて……御貴族様の手下はいい気なモンっすよね。
まぁ、寂れた街道の猛獣狩りよりもコッチを優先して良い。って言うから、俺は良いんですけど。
いやぁ、収穫の無い、何も無い原っぱとのにらめっこよりもこういうのが俺は好みっす。
期限の最後にまともな仕事にありつけて良かったっすよ。」
狙撃手だってのによく喋る。ったく……………。
「俺達傭兵は依頼を選ばない。選ぶべきじゃねぇし、選ぶ権利もねぇっての。
契約は『二カ月間配下として命令の通り仕事をこなす。』で、俺達は二カ月間、御貴族様の犬になる。
で、運良く生き残れたら金が貰えてそこで契約は御仕舞。
それだけだ。
妙な部分が有っても俺達は詮索しないし詮索してはいけない。
生き残りたきゃ余計な詮索してないで、この状況を如何にかする方法を考えろ。」
「解りやした。流石に『剃刀ジャリス』のアドバイスは聞きますよ。
では、お仕事お仕事。」
そう言って金髪は目の前の仕事へと向かっていった。
こういう気怠そうなのに限って切れ者という創作のお約束。
私的には嫌いでは有りません。
そして、意外と後輩が血生臭くて怖い。




