無言のさんじ
手強い。
それがシソーデの偽らざる評価だった。
意表を突いた武器、そんなもの、幾らでも相手にして勝ってきた。
何故なら相手の付け焼き刃よりも馴染んだ俺の長剣の練度が上だから。
しかし、今回の相手は長剣の弱点を理解している。
そして、振り下ろされる一撃を受ける度胸と、的確に反撃を加える武器の練度は長剣の理解とは別物だ。
火を見れば臆して降参するだろうと思っていた。だからこそ、熱より光を重視して放った。
それを止められた。
冷静に対処され、どころか不用意な魔法行使で反撃の隙を生んでしまった。
だが、それがなんだ?
今、俺は立っている!
相手が強くても、卑怯者なら負ける道理は無い!
妹とメイド達のために、俺は闘い、そして勝つ。
それに、奥の手もある。
ピンチだ!
笑うモンテルの内心はパニック状態だった。
剣は斬れないとわかっていた。でも、それが自分の指先ギリギリにぶつかる感覚は怖い。
炎の対処の仕方は教わった。何度か見せられたこともある。それでも、実際に火を前にしてみると、怖かった。
あれだけ隙だらけの所を殴った。けど、殴った感触が変だった。
多分、咄嗟に魔法を使われて、それに押し負けたか、ずっと魔法を使い続けているか……
それだと勝てない?
そんなことはない!
アイツに教わった。魔法は力だけが強さじゃないって。
ならイメージしろ、ボクがあいつに勝つ方法を。
ならイメージしろ、アイツとカテナと笑うための方法を。
絶対に勝ってやる。アイツと闘ってきたんだ、コイツに勝てない訳がない!
『身体強化』・『強度強化』・『気流操作』
全身が強く、堅く、風を帯びて啼く。
『身体強化』・『強度強化』・『地形操作』
全身が強く、堅く、大地が自分を押し上げる。
長剣が振り下ろされる。今度は前よりずっと速く。
メリケンサックが突き上げられる。今度は前よりずっと重く。
魔法戦闘が加速する。
《解説席での軽食は続いている》
「凄まじい世の中になったもんだ。子どもの頃からあんなにやれないといけないのか?」
「高貴な者は高みに座すものではなく、高みにあって更に高くに手を伸ばすものだ。
恵まれた者はより恵みを求め、それを分け与えねばならない。」
「厄介だな。」
「恵の対価を払っているだけだ。より良い物を口にし、より良い物を身に着け、より良い家で眠る。その分だけ、己を律し、研鑽する。
貴族とはそうあるべきものだ。」
「疲れたら喰って眠れよ。それさえ出来れば他がなんであれ、どうにでもなるんだ。」
「気遣い、感謝する。レイバック殿。」
「いや、言うだけならタダだ。大したことじゃない。ほら、焼けたぞ。」
コックが当主に渡したのは、炙ったマシュマロだ。




