相手は神童
《それを見ていた解説席では》
「ング美味い!動きだな。」
「ダイエイトの倅の方が強大な魔法を使っていた。
だが、奴の倅の方が技量で上回っていたな。フム、美味だ。」
「泥の壁で熱を殺しつつ曲線を使って美味く上に逸らし、その時の水蒸気に紛れて距離を詰め、『地形操作』の囮で不意打ち。ゴクリッ」
「手癖の悪さが奴に似たな。腕は良いのに嘆かわしい事だ。コクリコクリ」
「技巧派、と言ってやってくれ。
何にしろ、あの火を前にして冷静にやれなきゃ出来ない芸当だ。度胸がある。
この野菜、美味いな!」
「それは認めよう。あれは教材を見て倣っただけの動きではない。教わり、習い、そして己の動きとして取り込んだ者の動きだ。
ベーコンもチーズも良い香りと味わいだ。
奴の家に嫌気が差したら我が家の門を叩くと良い。腕の良いコックであれば、幾ら居ても困ることは無い。」
即席で作ったベーコンとチーズのサンドイッチ、更にワインまで味わう実況解説席。
だが、実況と解説はきっちり行っているので誰も口出し出来ない。
「では、この勝負はモンテル様の勝ちと見て宜しいですかな?」
一人居た。
サンドイッチの用意をして、それに合うワインとグラスを2つ用意して給仕をしている執事、ジー=ヤーンだ。
「それは違うな。」
「遂に呆けたな。」
否定の言葉が同時に飛んできた。
「ウチの坊は戦術と技量を駆使して何発も入れている。魔法込みのメリケンサックだ、本来無事じゃ済まん。」
「あれだけの攻撃をまともに受けていたなら、立つことすらままならない。
動きが落ちた状態で最後の完全な不意打ちを貰っていたら、そこで決着となっていただろう。」
「「だからこそ、ここで倒せなかったのは致命的だ。」」
その言葉を裏付ける様に舞台で爆発が起きた。
耳元で止まない金切り声が聞こえる。
熱い、痛い、フラフラする……。
考えがまとまらない。けど、立たなきゃ!
唇を噛んで立ち上がる。痛みでぼんやりしていた頭がハッキリしてきた。
「卑怯者に相応しい、小賢しい、闘い方だ……」
何度も殴った。『身体強化』と『強度強化』、それにメリケンサックを着けて殴った。
今の奇襲だって囮に引っかかってまともに入った。それなのに、反撃してきた。
そうだ、思い出した。アイツ、殴られた後でこっちに魔法をブチ込んできたんだった。
「決闘は、一対一でやれば良いんだから、卑怯でも、小賢しいでも、ないだろ……それに、避けられなかった……お前が悪い!」
痛い、苦しい、辛い……けど、敢えて言ってやる。
誰が卑怯だ、誰が小賢しいだ!
「悪いが、俺は避けられなかった訳じゃない。」
ニヤリとこっちを見て笑う。そんなこと知ってる。
殴っても殴っても、それでも倒れてない。
「俺は、避ける必要が無かったから、避けなかっただけだ!そんな小細工、効かん!」
よろけた。
それは嘘だ。




