決闘の余興はこれにてお仕舞い
深夜、特訓中の出来事。
「坊、決闘に使う武器は決まってるのか?」
「いや、あれって普通剣じゃないの?」
決闘と言えば剣戟。それは絵本や冒険小説の挿絵にも描いてある。
「ルール上、得意な武器で審査を通れば何でも良いってことになってる。
槍の名手が槍で決闘に赴いて十人くらい伸したって話は有名だし、蛮族と呼ばれた奴が決闘した時は馬鹿でかい斧をぶん回したって話も聞く。
自分にとって一番得意な物を使うのが良いぞ。」
「得意な物……」
魔法は最近習った。今まで使っていたのは魔法じゃないと思えるくらいに知ったし経験した。
剣は最低限習ってる。けど得意な物ってなると……
「その様子だと剣は大してって感じだな……なら、これなんかどうだ?」
暗闇の中からキラキラした塊が二つ、紐で繋がって飛んできた。
「うわ……」
危険な物な気がして、念のため『強度強化』で受け止める。
正解だった。穴の開いた金属の塊だった。
「それを両手につけてみろ。サイズの問題は無いハズだ。」
「なにこれ?」
妙にゴツゴツしていて、いかにも殴る気満々な、あ、ピッタリだ。
「それに『強度強化』をやってみろ。『地形操作』やってただろ?あれの要領で『強度強化』をそれにしてみるんだ。」
「う、うん……」
よく解らないけど、しっくり来た。
「その顔を見る限り、うまくいったな。俺のお下がりで悪いが、持っていきな。」
「どうやって使うの、これ?」
「つけて殴るんだよ。それで終いだ。」
「え?」
「自分の拳骨を鋼鉄砕ける様にって鍛える奴は山ほどいるが、この短期間じゃそれは難しい。なら、拳骨に金属くっつけて魔法で強化して殴れば……良いだろ?」
「剣使ってくる相手にこんな小っちゃいのでどうやって闘えば良いんだよ?」
「長剣相手にメリケンサックで殴り勝つにはどうしたら良いか?決まってるだろ?」
『身体強化』・『強度強化』
長剣は確かにメリケンサックより重く、長い。
けれど重いからこそ動きは制限される、長いからこそ懐に飛び込まれた時に無力になる。
離されるな、息をつかせるな、考えさせるな、手数で押し切れ。
『下手な付け焼刃より、今あるものをより強くした方がずっと強い。』それが結論だった。
「……俺を相手にここまで善戦するとは、卑劣漢にしてはやるな。」
「誰が卑劣だ、何が善戦だ、ふざけるなよ。」
何発も何発も殴った。
こっちはほとんど喰らってない。
『身体強化』・『強度強化』・『地形操作』
この三つは嫌って程お手本を見せられてきた。
その内二つを使って思いっ切り殴ってるのにそこまで効いてない。
「ふざけてなんかない。そもそも、武術で俺に一発入れる奴は同年代では稀だ。
そんな珍妙な武器をよく使って、よく俺に当てられた。誉めてやろう。」
腹の立つ奴だ。
「だが、それは『武術』だけの話だ。俺は、妹とメイド、そしてダイエイト家の家名を背負ってこの場に立っている。お遊びは、これでおしまいだ。」
間合いを取った。一息じゃ近付けない。
一歩一歩近づいていく?違う。それだと次のアイツの攻撃に間に合わなくなる。
「褒めてやる!そして誇れ!武術と魔法、その両方を俺に使わせ、その上で倒される事を!」
『火炎』
シソーデの剣が赤色に染まり、揺れる。
それが松明の様に炎を纏い、振るわれる剣の軌跡を赤く灯した。




