決闘開始!
興奮に包まれた会場にヤヤーナが一層声を響かせる。
「これより行われる決闘茶会、その一切をこのボク、ヤヤーナ=リバルツが取り仕切る!
意義のある者は手を挙げ、前に!」
誰も手を挙げない。前に出ない。それを確認し、ヤヤーナが少し収まった会場の熱気を吸い込み、一声。
「シソーデ=ダイエイト、前に。」
「解った。」
舞台中央、ヤヤーナの前に向かう。
叫び声が響く。興奮と期待に満ちた視線を浴びる。その中に妹の姿を見て一層胸を張る。
全ては妹の名誉のために。
自分の目の前に進み、止まったことを確認し、ヤヤーナがもう片方へ目を向ける。
「モンテル=ゴードン、前に。」
「あぁ、解った。」
響く声の中には期待より疑念に近いものがある。モンテルに周囲の評価を聞いている暇は無かったが、シソーデ=ダイエイトとモンテル=ゴードン両者の下馬評が圧倒的であることは既知だった。
それでも、行く。この場にいる誰もが期待していなくても、匙を投げつけられても、それでも守るべきものがあるから。
それさえ守れなきゃ意味がない!
歓声の中、両者が睨み合う。
これはあくまで戦争ではなく決闘。故にルールは厳守しなければならない。
「これより決闘を行う。両者、己の闘う理由とその望みを宣言せよ。」
「我が愛しき妹とメイド達の傷付けられた尊厳を守るために私は闘う。
俺が勝った暁には、モンテル=ゴードンに心からの謝罪を要求する。」
「我が忠義者のメイド、カテナの名誉の回復のため、私は闘う。
ボクが勝った暁には、カテナへ行った根も葉もない侮辱を取り消して謝罪してもらう。」
「聞き届けた。そして、次に両者へ武器を返却しよう。」
リバルツ家の金庫に保管されていた両者の武器。それが検分され、両者の手元に戻ってくる。
「相手を気絶させるか、降参と言わせれば勝利となる。
武器、魔法の使用は可能だが、殺害、不可逆やそれに準ずる負傷を与えた場合は即敗北となる。
何か意見は?」
「「無い。」」
「では両者、位置について。」
ヤヤーナが舞台から去り、両雄が距離を取って立つ。
興奮の熱気は消えていない。だが喧騒は誰が止めた訳でもなく静まり返り、風の音が聞こえるだけ。
構える。
相手を見やる。
武器を強く握り締める。
早鐘を打つ心臓とは対照的にゆっくりと深く呼吸をする。
「決闘、始め!」
ヤヤーナ=リバルツの号砲と共に決闘が始まった。
同時に観客席の一画でとある試み……あるいは催しが始まった。
「さぁ決闘が始まりましたな。しかし、ここにいる紳士淑女の皆様の中には、こういった闘争に明るくない方も少なくありません。
ということで、差し出がましいかとは思いましたが、このジ=ヤーン。実況と解説を相応しい方にお願いすることに致しました。お二方、先ずは自己紹介をよろしくお願いいたします。」
「あぁ、ゴードン家コック、スティーブ=レイバックだ。コックに決闘の実況やら解説が務まるか解らないが、折角ウチの坊が闘うんだ、尽力はさせて貰おう。」
「……………」
「自己紹介を、お願いいたします。」
「この私に対して、よくもこの様な席を用意したな。」
男が執事に向ける言葉には棘があった。
「生憎と、私はお暇を頂いた身ですので。では、自己紹介を。」
執事はその言葉にまともに耳を貸さず、再度自己紹介を要求する。
「リバルツ家当主、クロージン=リバルツだ。」
『クロージン=リバルツ』
ヤヤーナの父親で現リバルツ家当主。ゴードン家現当主のショーマス=ゴードンとは旧い付き合い。
名前の由来は『閉幕(Closing)』より。
実況解説役として手頃な人材を、と探した執事が一計を案じ、『一番良い席をご用意いたします。』と騙して連れてこられました。ちなみにヤヤーナは知りませんでした。




