決闘茶会の開始を宣言しろ、ヤヤーナ!
シソーデ=ダイエイトはかつて無いほど絶好調であった。
どこまでも精神が冷静で安定している。波紋無き水面の様だった。
それなのに心臓は早鐘を打ち、熱血が全身を駆け巡り、活火山の様だった。
澄んだ思考とそれを活かす肉体。それがあったからこそ、一つの雑念が沸いた。
『何故だろうか?』と。
それは自身の理性から出た疑問であり、自身の感情から出た疑念であった。
冷静さを欠いていた。感情的になり過ぎていた。
結果、侮辱と成り得る自分の浅慮な行為に気が付けなかった。
そして、結論を出した。
今は考えることを止める、と。
今、目の前の闘いに勝てなければそもそもこの考えは無意味になる。
勝者にだけ選択肢は現れる。
敗者になれば意味が無い。
目の前の相手がなんであれ、全力で叩き潰せば良い。
自分が神童だ天才だともてはやされている事を知っている。だが、それでも慢心せずに研鑽を重ね、新たな魔法を手に入れた。
あとは勝つだけだ。
茶会の参加者が場所を移し始めた。
突貫工事ではあるものの、仕事に関しては一流の大工の技は貴人の眼鏡にかなった。
その眼鏡の奥にあるのは面白いもの見たさの好奇心であり、未来の敵情視察であり、青田刈り品定めの審美眼であり、見届ける使命感である。
なんにせよ、幾つもの眼がたった一つの若人の喧嘩に向けられている。
「この茶会に参加する紳士淑女の皆。本日はお集まり頂き、誠にありがとう。」
ヤヤーナ=リバルツが観客席の中心、舞台に立ち周囲を見渡しながら声を響かせる。
人々の視線が集まる。今、この場の主人公はヤヤーナ=リバルツだ。
「今回の茶会の主人、ヤヤーナ=リバルツだ。先ずは謝罪をさせていただこう。
先日の茶会はこちらの不手際ゆえにすぐお開きにしてしまい、本当に申し訳なかった。
皆の楽しい時間を瞬く間に終わらせてしまったこと、心苦しく思う。
そこで、だ。今回、償いの茶会を再び開くことにした。」
周囲に目を向ける。
皆、たった一人の主人公に視線を送る。
これから何を言うか、それは皆知っている。これは茶番劇、だがそれでも、結末が最高である事が約束された序章はそれに相応しいものでなくてはならない。
「とはいえ、ただの茶会を開いて茶会の償い……というのは趣に欠ける。
なら、どうすれば良いか?私は考えた。」
ヤヤーナ=リバルツは悪寒がしていた。
何かを口にする暇が無かったのに、吐き気がする。
昨日は中々寝付けなかった。ここ数日、クーネに食事やその他生活習慣についてかなり気を遣わせた。
ここでやり遂げてこそ!
全方位から突き付けられる重圧を前に倒れない。
一つの思いが若人を奮い立たせる。
「先日の茶会お開きの原因となった二人の若人は決闘をすることになった。
その場の主人として、このボクは彼らの見届け人となった。
だが、ボクもただ決闘を見届けられるほど暇じゃない。皆の茶会の準備が必要だったから。
そこで考えた、この二つ。茶会の主人と、決闘の見届け人。
二つ同時に行ってしまおう……と。」
指を鳴らす。
それを合図にどこからともなく濃霧が立ち込める。
「茶会に参加してくれた紳士淑女諸君!君達には是非、このボクと共に情熱的な若人達の決闘の見届け人となってほしい!」
風が吹き荒れ、真っ白な視界が晴れる。
舞台に立つ影が二つ増えていた。
「これより、シソーデ=ダイエイトとモンテル=ゴードンの決闘を行う。
決闘茶会の始まりだ!」
散々焦らされ、興奮が弾けた。
決闘開始ぃ!は未だです。オノマトライゼオル。
リアクションがついに2000に到達しました。ありがとうございます。




