ナンパ男が赤い貴人を口説き、もうすぐ決闘が始まる
茶会を楽しむ者がいる。
茶会はそこそこにメインイベントを待つ者もいる。
そして……
「やぁお嬢さん。今回の茶会は新しい試みで実にユニークだね。
ところで僕の家も中々ユニークで有名なんだが、興味はないかい?」
茶会、茶会でない関係無く手当たり次第ナンパする者もいる。
ナンパ男が今回標的にしたのは狂い咲きの薔薇のように真っ赤なドレスを纒い、憂いが影となって妖しい艶やかな魅力を醸す美女だった。
「ごめんなさい、人を待たせています。お誘いはまた今度、出会えたら。」
『また今度、出会えたら』の意を持つ言葉でやんわり断る。
だがナンパ男は諦めない。
「そんな固いこと言わないでさ。ほら、せっかくだから楽しもう。」
少し乱暴に、手を掴もうとして……すり抜けられた。
「失礼、たった一人の大事な人を待たせているんです。
それでは、さようなら。」
薔薇の貴人は茶会の人の波に消えていった。
「……男いるのかよ、ちぇっ。」
ナンパ男の薄っぺらな化けの皮が剥がれ落ちる。
さっさと諦めて次を物色しようとして、先程貴人が消えた方を見た。
もう、あの鮮血のような赤はそこにはない。
憂いの表情もない。
ナンパ男の未練だけがそこには残った。
茶会の喧騒を余所に、リバルツ邸に用意されたそれぞれの部屋に座す男が二人。
一人はダイエイト家の長男にしてこの決闘茶会における『決闘』に参加するシソーデ=ダイエイト。
もう一人はゴードン家の長男にして同じく『決闘』に参加するモンテル=ゴードン。
両者共に極限の緊張状態にあった。
「随分と余裕だな。」
「なんだよ……何しに来たんだ?」
控室に現れた招かれざる客……客どころかこの茶会の主人なのだが、兎に角モンテルにとって招かれざる者がやって来た。
「このボクの茶会を滅茶苦茶にしておいて随分と偉そうだな。ヘタレてなくて安心した。」
「…………悪かったよ。」
憎まれ口や悪態の一つでも出てくるだろうと思っていただけに目を逸らしながら謝罪をした様にヤヤーナは拍子抜けした。そして同時に不安を抱いた。
「おいおい、おいおいおい、オイオイオイオイオイオイオイオイオイオイ。そんなヘタレた気持ちで決闘に出向くつもりか?
相手はあのダイエイト家のシソーデ。それを相手に君は決闘を申し込んだ。
頭に血が昇っていたのは解ってる。このボクに少し劣る君の実力だ、相手との差なんて、天地ほど有る事だって解ってる。
だけど君、解ってるのか?そんな腑抜けた真似、お茶会云々以前に許せるか!」
この時代に、しかも使用人の名誉の為に決闘するなんて前代未聞だ。
そして、それでもそうした目の前の好敵手の気持ちが解らないほどヤヤーナは鈍感ではなかった。
「君のメイド、カテナさん?彼女の名誉を守ろうとしたんだろう?それが、そんな腑抜けた面をして決闘に出る気か?カテナさんの名誉を守ろうとするその心意気を買ったというのに、そんなザマじゃ、こんな茶会を開いたこのボクに対する侮辱……」
ヤヤーナは自分が間違っていると理解した。
目の前の好敵手。何度も何度も睨み合い掴み合い取っ組み合いをしてきた旧い仲だが、その目は今まで見たどの目とも違っていた。
「ヤヤーナ=リバルツ殿、今日の機会を作って頂いたこと、感謝いたします。本当にありがとう。」
紳士の振る舞いだった。決闘前だというのに、穏やかに見えた。
「けど間違いがある。一つ目は、ヤヤーナよりボクの方が強い。」
直ぐにいつもの旧友に戻った。
「フン、言ってくれるじゃないか。で、その言い方だと間違いはもう一つ有りそうなものだが、ご教授頂けるかな?」
嫌味たっぷりに言った。だが、次の言葉でその態度は崩れた。
「シソーデ=ダイエイトとボクの実力差が天地ほどあるっていうのは間違いだ。
それを、これから見せてやる。」
『嘘じゃない。』
ヤヤーナは確信した。
ヤヤーナぁ!君そんなに仁義に厚い紳士だったか?
嫌なライバルポジは何処へ行った⁉
これ普通に良い奴なライバルポジぃ!




