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審美眼

 「おや、カヨウ様。本日はお兄様が闘われるという事で、楽しみにしておりますよ。」

 「ありがとうございます。兄も意気軒昂といった様子でした。」

 「カヨウ様。大変だったでしょう?お兄様がきっと敵を取ってくださいますわ。」

 「えぇ、信じています。」

 誰も彼も、私の事を見ていない。相も変わらず兄のことばかりだ。

 兄、シソーデ=ダイエイトは今日の主役。だからということで私が参加者の相手をする羽目になっていた。

 花形は矢張り兄。皆、w私のことはメッセンジャーくらいにしか思っていない。

 私がいくら着飾ったところで届かない。

 『我が愛しき妹カヨウ。どうか兄の勇姿を、見ていてほしい。』

 いつもの兄なら決して見せることのない汗と泥に塗れた姿でそう笑っていた。

 兄の高潔さは眩し過ぎて自分がより惨めになる。

 兄がいっそのこと私の事を蔑んでくれていたら楽だった。

 兄は私のことを心から愛している。だから、私は許せない。

 「カヨウ様、カヨウ=ダイエイト様とお見受けします。」

 呼ぶ声がした。

 「私に何か用かしら?」

 声の主を見る。くすんだブロンドヘアになんの面白味もない緑色のドレスの知らない地味な顔がいた。

 「お初にお目にかかります。私パルル=タチストン と申します。」

 タチストン……聞いたことの無い家名だ。

 「そう、はじめまして。」

 穏やかに、にこやかにそう答える。

 正直言って地味で面白味もないものに大した興味はない。

 手入れの甘い髪に、つまらない顔、そして古臭いデザインのドレス。

 トドメとばかりにそれを着ている人間に魅力が無い。動きから喋り方から何から何まで魅力と美しさの欠片も無い。

 どこを取っても地味で退屈だ。


 けど一つ。一つだけ惹かれるものがあった。


 「その首飾り、とっても素敵ね。」

 首元を飾るそれは、とてもとても美しいものだった。

 連なった大粒の真珠が今日の陽射しを受けてキラキラと虹色に輝いている。

 形も大きさも揃っている。これが貝の中から現れるものなのだろうか?

 「はい。お褒めに預かり恐縮です。

 本日、この茶会に出ると言ったら祖母がこれをと………

 良かったら、見て頂けませんか?」

 そう言って、自分の首からわざわざ首飾りを外して渡してきた。

 単に地味で魅力の無い女と、素晴らしい首飾りを手にした着飾った私がそこにはいた。

 「そう、では、失礼するわ。」

 心底どうでもいいという気持ちと、ダイエイト家の人間として後学の為に見ておきたいと、そう思った。

 とはいえ、手元にあるのは見間違いの余地の無い最高峰の真珠の首飾りだ。

 一つ一つの粒が超一級品。それを繋げて作られたこの首飾りはそうそうお目にかかれるものではない。

 「どうでしょう?」

 「素晴らしいものです。貴方のお婆様は素晴らしい目をお持ちなのですね。」

 首飾りを素早く返す。他人の装飾を長く手にしてロクな事は無い。

 当たり障りの無い言葉を選んだというのに、地味な女は目を輝かせて私に笑った。

 「ありがとうございます!」

 お礼を言う程の事だろうか?



 ここ一週間くらい、それなりに好調な気がします。

 お陰様でブックマークやリアクション、評価を頂きまして、更に加速。ありがとうございます。

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