思惑は交錯する
「ミス=フィアレディーが……ですか?」
警戒心を露わにシェリー君が問う。
それはそうだろう。
自分に水や泥を掛けようとして、それどころか毒迄盛ろうとした連中だ。警戒しない方がおかしい。
そして、その考え方は正しい。
「一緒に来て下さいません?
私、すっかり忘れてしまい、怒られてしまうかもしれません。」
後ろの方で姉二人がニヤニヤ笑いながらその様子を見ている。
ロクな事を考えていないのは明白。嘘なのも明白………だが。
フッ
「あぁ、夏休みの件でございますね。
申し訳有りません。部屋の荷物の運び出しの準備は完了しております。先にミス=ミリネリアは職員棟に行って伝えておいて下さいませんか?」
でっち上げ。という程の事ではない。
シェリー君は何時も宿舎で夏休みを過ごしている。が、以前の豚嬢の件で床が抜けてしまい、それを起点として連鎖的にその他設備の老朽化や校舎の方の老朽化の問題が露見した事で今回、宿舎と校舎の両方に改修工事が入る事となった。
そして、改修工事の間、宿舎、校舎共に使用不能となり、必然的に選択肢は職員棟のみになる。
そういう訳で、シェリー君は今年に限って宿舎の荷物を全て持って、教員棟にて夏休みを過ごす予定になっている訳だ。
が、その件に関しては特に何も言われてはいない。不自然さ極まっている。
何より、『一緒に来て下さいません』『職員棟に行って貰えないかしら?』だと。
言葉遣いが露骨に不自然過ぎる。隠す気…………本当に有るのかね?
さぁて、どうする気なのかね?
パタン
教科書を閉じてその思惑に乗る。
娘(小)の視線が思い切り教科書に注がれているが、敢えて何をしないか予想しないでおこう。
ミリネリアがアイツの所で話している。
急ぐように急かす算段になっていたが、慌てた様な顔になり、いそいそと席を立ち、教室を後にした。何もするまでも無かった。
教科書だけがその場に残った。
計画通りだ。
「教授?一体あの…………教授?」
シェリー君が必死になって止めようとする。
フッ
「どうしたのかね?シェリー君?」
「あの、教授、教科書を忘れているので今直ぐ取りに行って頂けませんか?
その………失くなってしまう可能性が……………」
言い難そうにそう言って戻ろうとする。
「問題無い。さぁ、ミス=フィアレディーが呼んでいると言っていたんだ。宿舎に急いで戻り、荷物を職員棟に持って行かねば授業に遅れてしまう。」
「あの…………教授⁉嘘ですよね?アレ絶対に嘘ですよね⁉」
フッ
騒ぐシェリー君を余所に私は宿舎へと向かった。
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