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決闘茶会の最功労者に賛美は贈られる

 《リバルツ家、庭園の一画にて》

 本日は晴天。心地好い風と陽光が照らしていた。



 貴人の子息やその親が入り口で招待状をメイドに渡し、奥へと向かう。

 奥にはシワ一つ無い白のクロスをまとったテーブルが幾つも立ち、その上には彫刻か絵画と見紛う程の多種多様な美味が広がっていた。

 『立食形式のパーティー会場』と説明されればそう信じてしまう。

 だが、そのパーティー会場の先にある異様なものが目に入れば、その説明はあっという間に説得力を失う。


 芝生が刈られ、巨大な円形の舞台が広がっていた。

 そしてその周囲には席があった。舞台からある程度距離を取って設置され、貴人が座して観戦するに相応しい豪奢な装飾が施されている。

 事情を知らなければ何事かと思うが、皆ここに来るまでの顛末を知っていた。

 招待状にも何が起こるかは書かれていた。


 『決闘茶会』


 ダイエイト家の子息とゴードン家の子息が茶会で揉め事を起こし、決闘ということになった。

 その場で今にも刃傷沙汰というところで主催のリバルツ家子息が仲裁に入り説得。

 野蛮な暴力ではなく美食と談笑、武の研鑽を魅せる優雅な催しにしようということになった。

 それが、『決闘茶会』である。


 「フ、このボクの頭脳と人望を以てすればこの通り。窮地を好機に変える手腕、我ながら恐ろしいな。」

 リバルツ家はダイエイト家とゴードン家の子息同士の揉め事の舞台にされただけで本来非は無い。

 が、争いに心を痛めて仲裁役を買って出て、他の客人への詫びを込めて『決闘茶会』という新しい娯楽を用意した。

 ヤヤーナ=リバルツはこの二週間で株を上げていた。

 「ヤヤーナ様?」

 「いや…当然、この光景はクーネやジー達の尽力あってのことだ。勿論、このボクは信賞必罰という言葉を忘れてはいない。

 使用人達の忠誠と努力を忘れてなんかない!」

 先程までの自画自賛はどこへやら、あっという間に怯え混じりの謙虚な子どものそれに変わる。

 「いいえ、予想不可能な出来事を前に的確に仲裁に入り、お客様への気遣いを忘れず紳士然として振る舞う。

 このクーネ、ヤヤーナ様に改めて感服しています。」

 「……へ?」

 少し(・・)鋭い眼光と共に(いさ)められると思っていたところで手放しの賞賛。これからこの会場に槍や火の雨でも降るのだろうか?

 「私は主が誤ればこの血肉の全てを賭して止めますし、主が力を欲すればこの命全てを賭して力になりますし、主が賛美されるべきことを成せば、いの一番に貴方の横で賛辞の言葉をおくります。

 貴方様がここまで成したのです。

 争いを止め、人々の心に寄り添い、友の為に立ち上がる。

 我々はその思いと熱意に動かされただけの駒に過ぎません。」

 「……ありがとう。」

 「しかし、未だ始まってもいません。油断召されぬよう。

 私は主の油断を許さないので。」

 眼鏡が刀匠の鍛えた刀身の如く鋭く光った。




 「招待状の提示をお願いします。」

 「これね。」

 「招待状の提示を」

 「ほら。」

 「招待状の提示…」

 「……」

 招待状が集まる。

 ヤヤーナ=リバルツの送った招待状。それは上質な紙とインクを用いて達筆な使用人がしたためたもの。

 彼は知らなかった。貴族社会においては招待状の偽物を対策する必要があるということを。

 もし、使用人が招待状の数を数えていれば、偽物に気付けていれば、二通(・・)多いことに気付けていた。

 もっとも、偽物と本物を判別する方法など、有りはしないのだが。





 決闘茶会はもう始まってしまっている。


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