決闘茶会の準備。そして、
「なら、始めるか。」
「そうする………ん?」
レイバックが変なことを言った気がした。
レイバックは今来たばっかりで、スープを持ってきてくれただけだ。
この後多分洗い物をして眠って、明日の朝ごはんの準備をするはずだ。
それなのに、何かをボクと一緒にやろうとしている様に聞こえた。
「ほら、決闘の特訓してるんだろ?見てやろう。」
「え?」
「坊、本は棚にちゃんと戻しておけ。整理整頓の鬼が見たら追っ駆け回されて掃除の手伝いをやらされかねん。
まぁ、そのお陰でコックが決闘のルールを知る事が出来た。」
「え?見てやるって、え?」
「相手を一対一でボコボコにすれば良いんだろ。なら得意分野だ。
ここに来る前は食材だけじゃなく、聞かん坊を料理することもあったからな。」
「手伝って、え?」
「坊には見せたことなかったか?魔法は対して強くないが、強い連中を殴って黙らせる方法は知ってるし、強い連中が何をしてこっちを黙らせに来るかも知ってる。
家庭教師先生が教えるほど上手くはやれんし、直接近接格闘を仕込むことは出来ないが、見てフォームの修正をするくらいなら出来ない事もない。」
レイバックの強さは知ってる。晩餐に来た酔っ払いの騎士をあっと言う間に組み伏せたのを見たことがある。
「今さっきまでの特訓、少し見せてもらったが、闇雲に魔法をばら撒くだけなら大して意味はない。
どうだ、どうせなら腕利きコック直伝の『料理の仕方』のレクチャーを聞いてみないか?」
「…………」
選ぶことなんて出来ない。
選べるほど余裕はない。
ただ、それが裏切りにならないかと少し躊躇っただけだ。
自分が今こうして魔法を使えるようになった理由。その人の顔が頭に浮かんだ。
「教えてください。」
浮かんだ顔は迷い無くこう言った。
「私に拘らなくても良いのです。私の教えたことは今、貴方のもの。
貴方に教えたのは、自分が先生として振る舞うためではなく、貴方のより良い明日のためのもの。
遠慮せずに、存分に学び、より良く在ってください。それが、私にとって一番の報酬です。」
アイツなら、そう言うだろう。
「良かった、良い顔だ。」
レイバックがニッコリ笑った。
ある者は筆を取った。
ある者は武器を取った。
ある者は指揮を執った。
ある者は教鞭を取った。
ある者は●●を取った。他人にも、自分にも。
ある者は●●を取った。
そして、ある者達は招待状を受け取った。
『決闘茶会』
子ども達のいざこざから発展した決闘と茶会を合わせたそれの開催、そして招待の手紙。
ある者は興味を。
ある者は野心を。
ある者は好物を。
ある者は好機を。
ある者は邪心を。
それぞれが求め、集う。
そして『決闘茶会』が始まる。




