シソーデ=ダイエイトの大特訓
『火炎』
轟々と音を立てて鍛錬場が熱くなる。
「ふむ、良い火力ですな。」
『激流』
白波と共に激流が鍛錬場を洗い流す。
「ふむ、素晴らしい水流ですな。」
『隆起』
地面が引き裂かれ、鍛錬場が隆起する。
「ふむ、激しい地殻変動ですな。」
『乱気流』
泥になった地面が巻き上げられる。
「ふむ、いい風が吹くなぁ、ですな。」
燕尾服にシルクハット、おまけにチョビ髭モノクルという胡散臭い出で立ちだが、魔法の腕とそれを十全に他者に伝える腕前は素晴らしい。
「これじゃダメだ。」
「決闘をするという話は聞き及んでいます。しかし、これ以上何を求めるんですかな?
相手も子ども、これだけ出来れば十分勝利出来るラインと言えますが?」
そうだ、俺は才能に溢れている。
そして、家柄にも恵まれている。
だが、慢心せず努力してきた。
今、あの身の程知らずの愚か者を倒せるイメージは、ある。
特訓する前から、そのイメージはあった。
だが、これではダメだ。
「もっとだ。もっと必要だ。これじゃ足りない。」
「具体的にどんなイメージをしているか、聞かせて頂けますかな?」
「『僅差での勝利』や『接戦の末勝利』ではダメだ。『十分勝利出来る』じゃダメだ。『シーソーゲームを制した』なんて以ての外。
『シソーデ=ダイエイトの圧倒的勝利』でなくてはならない。
あの愚か者には何もさせない。俺が圧倒的に勝ち、衆人環視の中、カヨウの前に従者共々跪かせる。
そうしなくてはカヨウの名誉は傷付いたままだ。」
「成程、圧倒的勝利であればあるほど良い。ということですかな。」
「そうだ!」
「ふむ……」
才覚に溢れ、努力も十分。それ故に教え甲斐があると思っていた。
だが、それ以上に人間性が面白い。
報酬が良い以上に、それが面白いから引き受け続けている。
この目をした若人は止まらない。納得しない。目的を果たすまで止まらない。
だから、どれだけ努力を重ねても同じことを言うだろう。
逆に言えば、どんなことを教えても、吸収しようとする。
「面白い。」
「何か言ったか?」
「いいえ何も。
もし、今のご自分の実力に満足しないというのであれば、少し変わった魔法をお伝えいたしましょう。
こんな魔法はどうですかな?」
胡散臭いモノクルが光る。
(向こうの子息には悪いですが、少し練習台になってもらうとしますかな。
まあ、死なない魔法故、ご容赦ですな。)
教えるのはとっておきの魔法。
自分が見た魔法の最奥。一度目にして焼き付いたその片鱗を再現した魔法を贈る。
リアクションありがとうございます。




