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家庭教師、シェリー=モリアーティーは堂々と宣言した。

 《ゴードン家にて》

 「申し訳ありません、私のせいで。」

 「カテナは謝る必要無いだろ!壊して汚したのはあのクソ妹だし、決闘をあんな風に見世物にしようとしたのはアイツのせいだ!」

 事情を聴き終えて、泣き出すオドメイドとそれを慰めるクソガキ。

 ダイエイト家、ねぇ。

 にしても、向こうのクソガキはよくその場を収めたものだ。

 危うく貴族の家同士の戦争になりかねないところを茶番にした。貧乏くじを引いたが、この後上手く立ち回ればその齢で手腕を買われる。


 問題はこっちだ。


 執事に目配せをして、カテナを退がらせた。

 「決闘のやり方を教えて!」

 目がギラギラしている。『自分のメイドへの非道を許さない』という義憤にしては些かそのメイドに対する配慮が欠けている。

 浅慮極まりない。

 「シェリー君。」

 「解っていますよ、教授。

 家庭教師は私です。どうかここはお任せください。」

 笑みで応える。

 「はぁ。それなら、シェリー=モリアーティー先生(・・)にお任せしよう。

 手を貸す必要が有りそうなら、その時は遠慮無く言うように。」

 「ありがとうございます。」



 「先ず、私は貴族の『決闘』というものを一切知りません。」

 「喧嘩した時に魔法とか武術を使った一対一の闘いして、勝った奴が負けた奴に言うこと聞かせられるってヤツだよ。

 いつも昼過ぎにやってるアレに似てるヤツ!」

 「次に、シソーデ=ダイエイトという方を知りません。」

 「宝石売ってるダイエイト家って有名だろ!アレのとこのクソガキだよ!

 キラキラ派手な奴で、魔法とか、武術とか、勉強とか凄い出来るって有名なんだよ!

 だから、急いで準備しないと、負けちゃうんだよ!」

 「その決闘がいつなのか、私は未だ聞いていません。」

 「二週間後にやるってアイツは、ヤヤーナは言ってた。

 アイツの家でやるんだよ。ねぇ早く。早く準備しないと!」

 必死である。

 手を握り締め、歯を食い縛り、地団太を踏み、落ち着きが無い。

 「質問があります、重要な質問です。」

 「なんだよ!」

 「あなたは先程カテナさんの話を聞いている時に、驚いた様な表情を何度かしていましたね。

 何故ですか?」

 「そんな顔してたかよ?」

 「えぇ、していましたよ。貴方とカテナさんが離れてから始まり、決闘茶会の話まで、かなりの頻度で。」

 「今聞いたからだよ。」

 「事情を聞いてなかったのですか?」

 「カテナ泣いてただろ!そんなこと出来るかよ!」

 「そうですね、カテナさんは錯乱していたことでしょう。

 なら、何故相手の話に耳を傾けなかったのですか?

 それだけの大事なら、目撃者はいたと思ったのですが、周囲に人は居なかったのですか?」

 「何が言いたいんだよ?カテナが嘘を吐いているって言いたいのか⁉」

 先程までのギラついた目から激情が消えていく。その代わりに、シェリー君に対する恐怖(・・)を浮かべ始めた。

 「いいえ、私が言いたいのは、貴方が何も考えていなかったということです。」

 それを聞いて再度激昂した。

 「何も考えてないってどういうことだよ!」

 「話をよく聞かず感情的になり、揉め事を起こしたその失態を『考えている』とは言えません。

 貴方は考えなかったのですか、それをしてカテナさんが『自分のせいだ。』と自分を責める可能性を。」

 「…………」

 「話を聞いていて、貴方はカテナさんを見ていませんでした。貴方が見ていたのはカテナさんではなく、カテナさんの為に怒る自分。

 貴方は義憤で酔っていただけです。

 何故、その場で冷静に状況の分析と真実の解明に頭を使わなかったのですか?

 話を聞ければ、物的証拠があれば、その場でカテナさんの心を傷付けずに済ませることだって、出来たはずです。

 貴方には冷静に考えれば真実に辿り着ける頭脳があったはずです。」

 「……」

 クソガキが黙る。

 真実。ハッ、真実ね。幾らでも捏造出来るハリボテのことだ。

 だが、シェリー君の言う方法は道理だ。

 その場で冷静になり、双方に証言させ、目撃証言を搔き集め、物的証拠を突き付けることが出来ればこうはならなかったのだから。

 既に証言は思惑が優先されたものに変わっている。

 時間は経過し人の記憶は曖昧になっている。

 既に証拠は片付けられた。

 もう手遅れなのだ。冷静さを欠いたばかりに。

 「私は貴方の家庭教師です。しかし、私は決闘の先生ではありません。

 よって、本件に関し、貴方に手を貸すことは一切いたしません。」

 家庭教師、シェリー=モリアーティーは堂々と宣言した。


 やらかしましたからね。こうなるのも止む無しです。


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