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冷静さを欠いた二人


 「?」

 シソーデは首を傾げ、わざとらしくニッコリとモンテルに微笑みかけていた。

 「なんだよ。」

 意味が分からない、気味が悪いとばかりにぶっきらぼうにそう言うモンテルに対してシソーデはこう答えた。

 「待っているんだよ。」

 「何を?」

 「謝罪を、だよ。人の可愛い妹と忠実なメイド達に無礼を働いた不届き者に対して、謝罪する機会も与えないなんて紳士的じゃない。

 俺は待とう。傷ついた淑女達に対して、(ひざまず)いて、(つくば)い、己の愚かさを認め、謝るのを。」

 「は?何を言ってるんだ?」

 「君こそ、何を言ってるんだ?無礼を働いた輩が謝りもしないなんて、恥を知らないんじゃないのかい?」

 息を呑んで信じられないという顔を浮かべ、真っ赤になり、そして少しだけ冷静になって言い返す。

 「なら、それをすべきは君の妹とメイド達だ。

 私のメイドを二人がかりで押さえつけ、飲み物を浴びせ、挙句にウチの家庭教師から贈られた首飾りを奪い、壊した。

 私のメイドにそれだけの無礼を働いて、挙句にその蛮行を止めようとしたボクに対して魔法攻撃を仕掛けるなんてね。

 ダイエイト家の言う紳士淑女というのは随分と乱暴なんだな。」

 それを聞いて、先程まで英雄然としていた男の表情が少し変わり、妹へと向けた。

 「カヨウ、それは本当か?」

 「お兄様、私は誇り高きダイエイト家の血族です。

 私は恥じる様なことは一切しておりません。」

 「だそうだ。私は妹のその目を信じる。」

 「自分の目が節穴だってことを信じた方が良いんじゃないか?

 それとも、横から魔法を撃つような卑怯な兄あって嘘吐きな妹やメイドありってことか?」

 余裕の笑みを浮かべ、紳士的な表情をしていたシソーデの表情が激変した。

 「『人は誰しも誤るもの、だから謝ればそれを笑顔で許せ』というのが我が家の家訓だ。

 だが、その家訓には『誤りを重ね、謝らずにいる者は正せ』という続きの文がある。

 ダイエイト家の人間を侮辱し続けた貴様の無礼を、俺は許さない。」

 怒りの表情。だが、それに対して怯むほどモンテルも冷静ではなかった。

 「許さない?ふざけるなよ、ボクだって頭にきてるんだ。カテナをあんな風に泣かせやがって、許さないのはこっちの方だ!」

 剣呑な雰囲気になる。誰もが両者を止められずにいた。

 「かかってこい。ダイエイト家の誇りを以てお前を叩き潰してやる。」

 「ふざけるな、そんな誇り、ボコボコにしてやるよ!」

 互いに冷静さを欠いていた。だが、一片だけ、残った貴族の子どもとしての意地が、両者にそれを口にさせた。

 「「決闘だ!」」

 貴族同士が他者との干渉なく、食い違った互いの意見や利権を通すために行われる闘い。

 それが今、始まろうとして。


 「それまでだ!」


 響き渡る声。

 空から落ちてきた老人が両者の間に着地する。

 「ご両名、どうか矛をお収めください。」

 このお茶会の主人、ヤヤーナ=リバルツが制止し、リバルツ家執事のジー=ヤーンが割って入った。


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