シソーデ=ダイエイト
やってしまった
それがモンテル=ゴードンの思いだった。
腕を押さえつけられ、髪が濡れて、首飾りが壊されて、それを拾おうとして手を踏みつけられていた。
一緒にいなかった。
守れなかった。
くそ
クソ
クソ!
「何をするんだ!」
カテナに駆け寄る。
「カテナ、大丈夫?」
「モンテル様、モンテル様、お借りした首飾りが、ドレスが、私は、私は……」
泣いていた。
こんな悲しそうな顔、見たことがなかった。
「どういうことだ?ウチのカテナに何をした!?」
さっきまでカテナを押さえつけていたメイドに怒鳴る。
顔が真っ青になって後ろに逃げようとしてる。
「おい、ウチのメイドが何か悪さでもしたのか?」
正面にいた奴を睨み付ける。
何も答えない。
ボクを見てない。
「カテナがお前に何かしたのか?
二人がかりで押さえつけて、飲み物を浴びせて、首飾りを壊して、その手を踏みつけられるほどの非道をしたのか!?」
何も答えない。
何も見てない。
「答えろよ!」
カテナを後に退がらせ、そいつに一歩近付こうとしたその時だった。
『気流操作』
声が聞こえた。
音が聞こえた。
マナー講習なんて頭から吹っ飛んでいたけど、それは忘れていなかった。
『強度強化』
受け身の体勢に入り魔法を使うと同時に、横から吹く突風で体が吹っ飛んでいった。
「モンテル様!」
風の音の奥で、カテナの声が聞こえた。
世界がぐるぐる回って、芝生の上に転がり落ちた。
「なんだよ、誰だよ?」
起き上がって風が吹いてきた方を見る。
人を吹き飛ばす強い風、今のは間違いなく魔法だった。
「私の妹とメイド達に無礼を働く不届き者風情に名乗る名など無い……と言いたいところだが、俺は寛容で慈悲深い。
だから名乗ってやろう。
俺の名はシソーデ、シソーデ=ダイエイト。
ダイエイト家の次期当主にして可愛いカヨウの兄だ!」
シソーデ=ダイエイト
カヨウ=ダイエイトの兄でダイエイト家の長男である。
そして、その評価は端的に言って最高である。
本来優秀なはずの妹が霞み、嫉妬で豪華絢爛になってしまうほどに(結果的に妹は妹で兄とは別の優秀さを手に入れたのだが)。
それだけ優秀であれば当然嫉妬の対象になる。
裏があるのだろうと邪推する。
疑念を抱かれる。
シソーデはその邪推と疑念を尽く砕いた。
邪推と疑念の結果、彼は逆に評判を上げた。
今、モンテル=ゴードンの前にいるのはそんな男である。
モンテル=ゴードンは名家の子息であるものの、社会的な信用は彼に劣る。
追い詰められている。




