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星と花々が狂わせる

 「いや全く以て、失態だ、あるまじき損失だ☆

 私ともあろうものがこんな花の様に可憐なお嬢さんのことを今まで知らなかったなんてね☆」

 左に一歩避ける。すると、左に一歩寄ってくる。

 同じ一歩でも私の一歩より大きいので、次第に距離が近づいてくる。

 「えぇと……」

 「折角出会えた縁☆今までの失態と損失を取り戻すべく、是非あちらで一緒にお茶を飲みながらお話でもどうかな☆」

 なんの失態なのか、なんの損失なのか、取り戻すもなにもそんなことをする気は無い。

 「いえ、私は……」

 「照れることはない☆さぁ、行こうじゃないか☆」

 手を掴まれる。

 整った顔が作り出す自然な微笑み、振る舞いの軽やかさとは違って力強い手。

 身の危険を感じて、思わず。

 「失礼いたします、私は下賤なメイドの身故、これにて失礼いたします!」

 少し強引に振りほどいて、そのまま背中を向けて逃げてしまいました。

 「ふーん、メイドか☆」

 貴族にとってメイドは下賎の身。それは常識である。

 「成る程、原石は磨いてこそなんだな☆

 ウチのメイド達も綺麗だが、もっと素敵になるのなら、服や化粧品を贈るとするか☆」

 チャラオール=ダーテン。ダーテン家の息子で、(ちょう)弩級(どきゅう)の美人好きで誰彼構わず兎に角口説く。

 しかも、血統に口説き因子でも組み込まれているらしく、先祖代々男女問わず一族の人間は目の前の相手を口説きまくる。

 それが奴隷であってもメイドであっても人妻であっても自分を襲撃した暗殺者であっても男の娘であっても安楽椅子に座る老婆であっても揺りかごに揺られる赤子であっても敵対する貴族の当主であっても口説く。

 そこに常識は無い。

 そこに躊躇は無い。

 そこに差別は無い。

 タチが物凄く悪い。だからこそ。

 良くも悪くも口説く人選としては最良過ぎた。自然過ぎた。




 「どんな方から教わったのでしょうか?」

 「ウチに来ている家庭教師の方から、です。」

 「まぁ、どの様な方なんですか?こんなに素敵な方の先生なのです。きっと素敵な紳士なのでしょう。」

 「女の人、です。」

 「まぁ、ではモンテル様が勉強熱心だったのですね。」

 「……え?」

 「女性の家庭教師の方が男性マナーをここまで熟知しているなんて、聞いたことがありませんもの。」

 「そうです、とても自然で、格好良い振る舞い、私達は習いませんもの。」

 「…いいえ、矢張り先生が有能だったんです。」

 正直、言いたくない言葉だった。

 『社交辞令』ってやつのつもりだった。

 けど、その言葉は多分、本当の言葉に聞こえただろう。本当に、そう思ってしまったから。





 ボクはその時、それに気を取られて気付けなかった。

 僕が好きな料理を取って戻ってきていたカテナのことに。

 そして、背を向けて逃げるように去ったカテナのことに。

 そして、カテナを刺す様に見ていた幾つもの目のことに。


 句点を☆にするキャラはもう出さないでしょう。君、面倒くさい。

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