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お茶会の水面下で

 シェリー=モリアーティーは優秀な家庭教師で、マナー講師としても十全な実力の持ち主だ。弱冠、しかして思慮深く、他者への献身に躊躇いが無い。

 品行方正高潔な精神の持ち主。他者から信頼を勝ち取るのは自明の理である。


 だが、一つだけ問題があった。それは自尊心の欠如である。


 これは彼女の置かれていた環境故仕方のないこと。

 どれだけ頑張っても、どれだけ優れていても、それを評価されない。むしろ蔑まれる。

 だからこそ、彼女はメイドへの首飾りを作る時、敢えて華美ではないものにした。

 最高の品を作ってしまえば、それは嫉妬する者に攻撃の理由を与えてしまうから。

 目を曳き過ぎて、私と同じ悲しみを味わうことがない様に。

 しかし、他者と比べて何も持たない自分を悲しまない様に。

 そんな願いを込めてシェリー=モリアーティーはカテナを飾った。


 ここに気付けない誤算があった。


 シェリー=モリアーティーが居た環境には、彼女を嫉妬する同性が居た。彼女を否定する同性が居た。彼女を蔑む者が居た。


 それしか居なかった(・・・・・・・・・)


 シェリー=モリアーティーは自分が醜いと信じて疑わなかった、そして今も疑っていない。何故なら『醜い』と言われ続けてきたから。

 客観的に見た時、自分がどういう評価をされるか、特に異性から見られた時にどうなるか、知らなかった。

 だから、着飾り方を知っていても、着飾った効果を知らなかった。

 普段メイド服で着飾らないカテナを、それなりに気を遣い、しかし己の持つ手札を惜しみなく使って美しく飾った。

 ちなみに、カテナの顔立ちはそれなりに整っている。


 「素敵なお嬢さん。君は僕にぶつかってない。謝る必要なんて、無いさっ☆。」


 ぶつかりそうになった男はカテナを見て、手を取り口づけ、そしてウインク。

 「私の名はチャラオール=ダーテン 。以後お見知りおきを、素敵なお嬢さんっ☆」

 カテナの人生において、着飾り着こなし、キラキラ星を飛ばし、初対面の人間の手とはいえ口づけする様な輩は初めてだった。

 「あぁ、あの……」

 シェリー=モリアーティーはカテナに伊達男のあしらい方をレクチャーすべきだった。




 「よろしいかしら?」

 横から声をかけられて、声の主を探す。

 赤、白、黒。それぞれ違う色を基調としたドレスに身を包んだ少女達がそこには居た。

 「……?」

 誰だか解らない。見た事がない。

 アイツからは『偽る気が無い場合に限り、身に着けているものや髪型で相手の出自はある程度推測出来る。』と言われた。

 服の色はバラバラ、形はよく見るドレス、髪型も周りの奴らと同じ様な形。

 どこの誰か解らない。知り合いじゃないと思う。

 「モンテル=ゴードン様、ですよね?」

 「いかにも。私はモンテルゴードン。失礼ですが、お嬢様方のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 その時のモンテル=ゴードンの振る舞いに瑕疵は無かった。

 文字通り身を以て、見ず知らずの人間を信頼して酷い目にあったばかりだったので、胸襟は開かない様にしていた。

 例え、それが無かったとて、彼女らに鼻の下を伸ばすことは無い。

 揺らぐ事の無い一輪の花が心の中心にあれば、移ろいは無いのだから。

 「あぁ、失礼をいたしました。私はティーゼ=ゲビーネン 。しがない末端貴族の娘です。」

 「私の名はエミット=ユーブ 。」

 「ユウリ=ヨルミ です。」

 三者三様に挨拶をしてくる。何かを企んでいるかもしれないし、そうでないかもしれないけれど、油断はしない。

 シェリー=モリアーティーはモンテル=ゴードンに時間稼ぎのための話し方の特徴とそれに対抗するための話術をレクチャーすべきだった。


 ブックマークありがとうございます。


 ここでシェリー君の技術について一つ。

 彼女のメイクアップ技術は学園で習ったもの+教授の指導で構成されています。

 前者は一般的なものですが後者は割と特殊で、どちらかと言えば『変装術』・『特殊メイク』に属するものです。

 前にも言ったかもしれませんが、魔法の変装は完成度が高いからこそ対策され易く、純メイク術は逆に光る場面が、有るとか無いとか?

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