やっかみ、たくらみ、トラブルの元
付け焼刃とはいえ、茶会を楽しむには十分の地力がついていた。
となれば、あとは楽しむだけ。
「モンテル様、こちらをどうぞ。」
カテナが取り分けたのはヤーン特製の野菜ケーキ。
しょっぱいクリームを人参とほうれん草の二つのケーキで挟んでその上に花の形のベーコンを載せたやつだ。
野菜嫌いのアイツになんとか野菜を食べさせるために作ったって聞いた。ボクは平気だし、美味しいから大好きだ。
「カテナ、これはどうかな?食べてみてほしい。」
見つけたのは花びらがのった小さなゼリー。
赤、青、紫、黄色の花びらの下には小さなフルーツが何個も見えている。
「ありがとうございます、いただきます。」
笑顔で食べる。
その姿を見てメイドだとは誰も思わないだろう。とっても、きれいだ。
アイツの講習でカテナはボク以上に大変な目にあってたけど、成果が出てる。
「あちらに美味しそうなお料理がある様なので、少し取って参ります。」
「うん、お願い。
……あ、そうだ。カテナ、言い忘れていたことがあった。」
「なんでしょう?」
「今日のカテナ、いつもよりもずっとキレイだよ。」
「ありがとうございます。モンテル様の姿も、とても素敵です。」
丁寧にお辞儀をした。慌てたみたいに、カテナが外のテーブルへと向かっていった。
「いっちゃった。」
一人、何かを食べるか。それとも、誰かと話すか?
「よろしいかしら?」
声をかけられた。
緊張する。
パーティーでお見かけした高名な家の方々が沢山。
身に着けているのは先生謹製の素晴らしいドレス。
首には先生からお借りした私には身に余る首飾り。
私はメイドの身でありながら分不相応にここにいる。
私なんかが貴人達のお集まりに招かれ、先程から何人もの視線を向けられている。
何か粗相をしてしまったのかとも思いましたが、その視線は、多分悪いものではない。
ああ、緊張する。体が全部心臓になったみたいにドキドキしている。体が燃える様に熱い。
『今日のカテナ、いつもよりもずっとキレイだよ。』
その言葉を聞いてから、その緊張がずっと激しく、大きく、抑えられないものになった。
足早にその場から離れたのは、今の自分の顔がどんな風になっているか解らないから。解ったとしても、どうにもならないと解ってしまっているから。
足音を立てないように、静かに、けれどあの場から離れるために、外の空気を浴びてこの緊張を冷ます為に。
慣れない靴。慣れないドレス。慣れない環境で前が見えていなかった。
「っ。申し訳ありません!」
目の前に急に表れた大きな影の寸前で、何とか止まる。
謝罪がメイドのそれになりそうになったのをグッとこらえた。
「こちらこそ、お嬢さん大丈夫ですか?」
大きな影は慌てることなく、私に手を差し伸べた。
大丈夫です、すぐに、回想は終わります。
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