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振る舞い一つで魅せる品格と風格

 「やぁ、ごきげんようモンテル君。」

 「ご機嫌麗しゅうモンテル君。」

 「そちらのお嬢さん、私とお話でも?」

 「ご機嫌いかがですかモンテル様。」

 「モンテルー、おひさしぶりー。」

 「おや、そこの姫君、私とお茶でも如何でしょう?」

 なんだろう、ものすごく、浮いている。

 ボクだけちょっと動きが他と違うような……というか。

 (皆マナーが悪い!)

 全体的に雑というか、覚えてるけど覚えきれてないというか……無理矢理取って付けたような気がする。

 (こんなんじゃ怒られる!)

 『優しい教え方をします。』とか言っておきながら笑顔で鬼みたいに厳しいことをするアイツの前でこんなことをしたらやり直しをさせられる。

 「なんだよ、アイツ、こんなに皆出来ないなら、ボクも出来なくたって良かったじゃないか……。厳し過ぎる……。」

 「モンテル様、先生は何か考えあってやって下さったんだと思いますよ。」

 不満を呟く主人と諫める従者。

 気付いていないのはマナー講習を受けた二人だけ。

 この場で自分達だけが異質だと、浮いていると思っている二人だけだ。

 皆驚いている、皆目を奪われている、皆感心している。

 その自然で美しい振る舞いをする者へ敬意を払っている。


 シェリー=モリアーティーが身を置いていた場所、今も籍を置いている場所は特殊であった。そして、彼女自身も特殊であった。

 学園ではマナーは出来て当然。

 破ったり軽んじたり、守れない者は罰される。そうでなくとも蔑まれる(・・・・)

 『マナーは罰則や法律ではない。』

 それは素敵な言葉だ、素晴らしい考え方だ。そして、所詮は理想論だ。

 あの学園においてのマナーの実態は規律であり、相手に隙を見せないための鎧兜の様なものだ。

 シェリー=モリアーティーはその出自故に蔑まれている。その上でマナーにおいても瑕疵があれば鬼の首を取ったように襲い掛かってくる。

 隙の無い構え、美しい所作、マナーが身についている自然な様は、襲い掛かる刺客を組み伏せることが出来る。

 そして何より、その様は美しく、見た者を惹きつけ、畏怖を与える。

 それこそ、ナイフや銃、魔法を突き付けることを躊躇してしまうほどに。

 所作が身についていない者の中で一層輝く様に。


 「素晴らしいものですな。あれは、一朝一夕の付け焼刃ではありますまい。

 本人の所作も素晴らしいですが、あれだけの振る舞いを教えた方は、さぞ名のある方でしょう。」

 執事の見立ては外れている。だが、鍛えた者は業物と渡り合えるだけの付け焼刃をと、『名のある方』の知識と振る舞いを焼き付けた。

 「フン、このボク程じゃないが、あれなら見苦しい真似をしないか見張る必要は無いな。」

 「私の主は、私に泣き付いて一晩中お茶会の練習に付き合わせたことが何度もあるのですが、その方についてヤヤーナ様はどう思われますか?」

 「………………」

 恨みがましい従者の呪詛に、主人は何も言い返せなかった。


 余裕の振る舞い、暴言も無し、しかし圧倒的に強いキャラクター。

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