ヤヤーナ=リバルツの歓迎
リバルツの屋敷は好きだ。ウチほどじゃないけど、人が住んでいる感じがする。そこに居てホッとする楽しい場所だ。
ヤーンさんは好きだ。ここに来ると必ず笑顔で迎えてくれて、好きな料理を出してくれる。嫌いな野菜は出さないようにしてくれてる。
リバルツ家当主のクロージン氏は、好きだ。笑ったのを見たことがないし、あまり話してはくれないけど、そんなに怖い人じゃない気がする。
アイツは別として、アイツのメイドのクーネは好きだ。最初会った時は正直怖い顔だと思った。けど、実はそんなことはない。テンションは低いし睨んでくるけど、アイツと違ってボクを嫌ってるわけじゃない。
子犬を撫でようとして逃げられてがっかりしたり、カエルにびっくりしたり、結構面白い。
でも、アイツは、好きじゃない。好きになれない。嫌いだ。
「ようこそ、カテナ嬢!今日はまた一段と美しい。
あぁ、このボクの茶会にようこそ!」
嫌いな声がした。
どんな声か?呼吸音だけで背中がぞわっとする。声なんてふざけるな、だ。
自分は余裕ですよみたいな顔をしてわざとらしくゆっくり歩くその足音が嫌いだ。
両手を広げて『ようこそ我が家へ』みたいなポーズをして、自分カッコイイみたいな顔をしてるのが嫌いだ。
こっちを見るとすぐに突っかかってくるウザさが嫌いだ。
とにかく何もかもすべて全部存在の端から端までコイツが絶対的に普遍的に圧倒的に嫌いだ。
「ヤヤーナ=リバルツ……。」
この世で最も嫌いな奴の名前で、今回のお茶会のホストの名前だ。
「おやぁ、そこにいるのはモンテル=ゴードン君じゃあないか。
いやあ、このボクともあろうものが気付かなかった。
それなりの存在感がありさえすれば、見逃すことなんてないんだけどなあ!」
イチイチ大げさでボクより身長が小さいくせに上から目線気取って大物ぶって話しやがって。
「今日はお招きいただき感謝する。ヤヤーナ君。
けど大丈夫かな、そんなに目の調子が悪いなら靴下の色も分からないんじゃないのかい?」
キザったらしい顔が歪んだ。
昔、コイツが靴下を左右バラバラに履いて『これがファッションだ!』と意気揚々と言ってたんだ。
今はもう、両方同じ靴下だけど。
「言うじゃないか……」
アイツが顔をピクピクさせたままこっちに近付いてきて……
「お久しぶりですモンテル様、カテナ様。
本日は遠路遙々御越し頂き、誠に有り難う御座います。」
口は笑おうとしているけど、顔と目が笑っていないメイドがアイツの前に立って止める。
「クーネさん、今日はお招きいただきありがとうございます。」
「…ありがとうございます。」
「いいえ、私はあくまで一メイド。
感謝の言葉を頂く様な身分ではありません。」
「そうだ、今回主催したのはこのボク…」
後ろから声をあげるアイツをクーネさんは睨み付けた。
「茶会のマナーが覚えられないと三日前に私に泣きついたのは何処の何方ですか?」
「この……ボクだ。」
急にアイツが汗を流し始めた。
「髪型がイマイチ決まらないと1時間私に相談したのは何処の誰ですか?」
「この……ボクです。」
震え始める。
「茶会の開催の雑務をこなしたのは、何処のメイドですか?」
「クーネ様です。」
完全に黙った。クーネはやっぱり強い。
「主人が失礼を致しました。どうかお許しを。」
「いえ。お気になさらず。」
「大丈…お気になさらず
。」
「さぁヤヤーナ様、ゲストのお二人をご案内してください。
それまでお客様の歓迎は僭越ながら私が。」
「ああ、勿論だとも。
さあ二人とも、今日はこのボクの茶会を存分に楽しんでくれ。」
会場に案内される。
「失礼致しました。
御二人に言い忘れたことが御座います。」
「なぁにですか?」
「なにか?」
「御二人共、非常にお似合いですよ。
そのお召し物。」
少しだけ、笑顔が見えた気がした。
こっちを見ると、カテナは顔を伏せていた。そんなに照れ臭いのかな?
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『ヤヤーナ=リバルツ』
『嫌な奴ライバル』が名前の由来。
ちなみにお茶会編なぞ当初は影も形もなかったので彼の存在も想定外です。
クーネさんの名前はカテナと対に成るように名付けました。カテナの名前の由来は忘れてるので本当に対かは謎ですがね。
こちらのメイドは主人に容赦がない上に有能なのでリバルツ家での発言力が主人以上です。




