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茶会を楽しむ、茶会で味わう、茶会は躍る

 お茶会ヘの見送りを終え、しばらく経った後。

 ゴードン家でも本日、茶会が開かれていた。

 ただし、その席に貴族はいない。堅苦しいドレスコードやルールもない。

 座しているのはコック帽を脱いだ大男と休むように言われた家庭教師の少女だけ。

 テーブルの上にあるのは主人には到底出せないが味わいは保証された菓子と茶だけ。

 奇妙な組み合わせの、しかしにこやかで終始楽しげなお茶会だ。


 「カテナの嬢ちゃんのドレス、見せてもらったが、ありゃぁ何処の仕立て屋の仕事だ?

 この短期間であれだけ見事な出来のものを用意するなんて、な……」

 茶を注ぎながら、こちらの顔を伺う。確証は無いが、他に考えられないから探りを入れている。

 「大したものではありませんよ。裁縫は習いましたし、上質な材料と道具を頂けましたから。」

 「うまい肉と野菜、よく切れる包丁に火力十分のコンロ。それだけあれば皆美味いメシが作れるかといえば、そんな訳がない。

 材料の組み合わせ方、火加減や切り方、調味料の量や入れる順番、その辺を上手く考えて美味く仕上げられなきゃ出来やしない。

 それに、食うやつの特徴を知った上で、大きく切るか、小さく切るか、熱いまま出すか、少し冷まして出すか、多めに出すか少なめに出すかを見極めて、観察眼と気配りが無きゃ、本当に美味い料理にはならない。」

 「気付いていましたか……」

 「例えが悪くて申し訳ないが、社交パーティーに紛れ込んだ襲撃者のドレスに似たような細工がされていたのを知ってる。

 外からは解り辛いが、動きやすいようになってて、あんな動き辛そうな服なのに飛ぶわ跳ねるわ……おっと、男のつまらん昔話をした。すまない。」

 「いいえ、面白い話が聞けました。

 腕利きコックのレイバック様の見立てでそうなら、私の考え方は間違っていなかったということになります。」

 オドメイドは社交パーティーの類に慣れている。ただし、ゲストとしてではなくホストのメイドとして、だ。

 流れは知っている、振舞い方の見本手本は幾らでも居た。

 マナーと動きは付け焼刃とはいえ、振る舞いで笑われない程度には焼き付けた。

 だが、理論は解っていても、自分が本番で実際に動くとなると勝手が違ってくる。

 慣れない環境、慣れない立場、その上に慣れない服となれば十全なパフォーマンスは期待できない。

 だから、シェリー君はドレスを作る時、外からは見えない様に、動きやすくなる様な余裕を作っておいた。

 見た目は崩れない。服を傍から見てもそんな工夫は看破出来ない様に。

 「動きを見なければ絶対解らなかった。見事だ。ほら、丁度試作菓子の余りがあったんだ。どんどん食べるといい。」

 「ありがとうございます。これ、本当に試作菓子の余り、ですか?」

 形が悪いかと言えば、そんなことはない。売り物になる。

 味に瑕疵があるかと言えば、やはりない。売り物になる。

 「はは、そういうことにしておくんだ。

 コックから一週間頑張った嬢ちゃんへの、ほんの賛美の気持ちだ。

 勿論、試作ってのは本当だから、気兼ねはしないでくれ。」

 「ありがとうございます。」

 「にしても、最功労者だから顔色が悪いかと思ってたが、そんなこと無くて安心した。」

 「そんな、私よりもお二人のほうがずっと大変ですよ。」

 こうして、楽しいお茶会の時間は過ぎていく。




 「失礼いたします、お茶会の最中に申し訳ない。少し、問題が起きました。

 モリアーティー先生、来て頂けますか?」

 社交界は優美で風雅、だがそれは(うわ)(つら)

 茶会一つといえど、無事では終わらないものだ。


少し、テンポがもったりしていたとやっと気付いて、すこーしだけストーリーのテンポを速くしてみました。

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