あの学園で生き残った猛者
クソガキがお茶会に参加することになった。そこで従者を一人連れていくということになり、指名したのは当然オドメイド。
だが、一介のメイドが参加する側としての茶会のマナーを心得ている訳もなく、当然それに相応しいドレスも持っていない。
ということで、白羽の矢が立ったのがクソガキの家庭教師にしてお嬢様がワラワラと犇めくアールブルー学園に所属するシェリー君だった。という訳だ。
「クソガキの分際で中々どうして悪くない人選だ。」
「人選ミスです。」
「さぁて!これは願ってもない好機だシェリー君。
君の手腕をこの家の連中だけでなく他の貴族共に見せつけてやるんだ。」
「いいえ!これは絶対絶命の危機です教授。
確かに、一通りは習いましたが実践出来るほどの力はありませんし、ましてや教えるなどもっての外です!
私が浅学菲才の村娘だということが露見するだけならまだしも、カテナさんに恥をかかせてしまいます。悲しませてしまいます。
今からでも遅くありません。何とか断らないと……。」
おっと、私が本当に面白全部でからかっていると思っているな。
だが残念、私は面白半分、真面目半分で考えて言っている。
「もし、君がこれから何かを成すのであれば、未知や危険、さらに不得意を見極める才覚は必要だ。
だが、同時に未知を開拓し、危険を承知で飛び込む必要も出てくる。不得意でも立ち向かわねばならないこともある。
であれば、今『教える』という形で学ぶのは好機だとは思わないかね?
特に今から君が教えるのは貴族社会でのマナーにまつわるものだ。
ここで『淑女の零』をする上で役に立たないということはないし、あの学園の『淑女』の定義的にもそれは重要なものだ。
違うかね?」
「仰ることがわからない訳ではありません。しかし、経験も資格も無い私が教えられる自身がありません。」
「なら作るんだ。
経験が足りなければ知識で補え、教える上で必要なのは資格より教える能力だ。
自身が無いなら自身が生まれるまであるもの全部をかき集められるもの全てを積み上げろ。
そもそも、君はあの学園で成績優秀者の証たる『特待生』として生き残ってきたんだ。しかも、私と出会う前からだ。
君は、まぐれや偶然、運なんて馬鹿げたものが介在しない実力によって、歓迎されないお茶会を潜り抜けてきた。
生き残るために身につけた力は病巣を切除するメスの様に洗練され、人を殺すナイフの様に強力だ。
諦めて胸を張るんだ、前を向いて堂々とするんだ。
君はあのメイドに少なからず感謝の意があるのだろう?であれば報いるために全力を尽くさねばなるまい?」
「……」
「ほら、メイドが連れられて来た。」
「えぇ、えぇ、わかりました。私も覚悟を決めました。
やってやりましょう、私も手札全て、使いましょう!」




