過去の自分を超す時間
直線勝負。
技巧を活かせる様な曲線の動きが必要のない場所。
持ち味を生かして相手から逃れるには有効な手だ。
ゴリ押し?力で押し切る?脳筋戦術?それは違う。
考えた上で相手の……無論格上相手なら話は別だが、ね。
「今、彼の魔法技能は発展途上です。しかし、魔力量だけで言えば私は彼の足元にも及びません。
既に、単純な魔法使用という点で見れば私は追い抜かされているでしょう。」
だがそれは単純な魔法なら、の話だ。
『強度強化』
『地形操作』
『身体強化』
『気流操作』
魔法の単一行使と複数同時行使、どちらの方が行使難易度が高いかと言えば、当然前者だ。
魔法一つ当たりの威力や干渉力についても、当然前者だ。
なら複数同時行使にメリットはあるか?当然YESだ。
魔法一つ当たりの力は落ちるが、トータルの干渉力になると複数同時行使が勝る場合がある。
単一の魔法を使う場合において、一定の魔力を魔法に変換したとて、それを制御する限界値があるからだ。
一つの力が大きくなればなるほど手綱を握るのは困難になる、逆に分散すれば一個一個の制御は容易になる、ということだ。
力に恵まれないならとそちらの能力を伸ばしてきたシェリー君。
力に恵まれているが、恵まれた力に振り回されているクソガキ。
「非常に速く、巧くなりました。」
草原に響き広がり消えるたった一つの拍手。
「嘘、吐くなよ、くそ……」
そう見えるのは当然と言えば当然だ。
草原に倒れこんでいるクソガキ。
背筋を伸ばして佇んでいるシェリー君。
飼いならせていない暴れ牛1頭の背に乗ってロデオをしたクソガキ。
よく飼い馴らされた子犬4匹と優雅に散歩をしていたシェリー君。
そんな違いだ。
「何度も言いますが、嘘じゃありませんよ。ちなみに今の貴方の速さは最初に走った時と比べると2倍の速さになっていましたよ。」
「違いなんて、分かるかよ、走ってたん、だぞ…」
息を切らしながら空を仰ぐクソガキをシェリー君がのぞき込む。
「足を重点的に強化すること自体は出来ていました。それなら、今の貴方は今までの貴方とは全く違っていますよ。
休憩が終わったら試してみましょう。そうすれば解ります。」
屈託無く、嬉しそうに、笑う。だがクソガキにはその表情の意味が解らなかった。
「以前やっていた基礎訓練を久々にやってみましょう。さぁ、魔法で私を攻撃してください。当たれば今日の授業は終了とします。
ちなみに、私は『身体強化』・『強度強化』・『地形操作』しか使いません。」
「何がしたいんだよ……」
シェリー君とクソガキが対峙した。
『火球』
光と熱が空気を押し出した。
子犬4匹を上手く動かす必要があるので実はそこまで簡単ではないのです。




