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第一形態の片鱗


 体が耐えられない。

 この矮小な手足を折るまで酷使したとて、私はあの領域には踏み入れるどころか足元にさえ届くことが出来ないでしょう。


 力が足りない。

 そもそも私の魔力はたかが知れています。あれほど強大な力を私が手に出来るとは到底思えません。それに、膨大な魔力があったとしてもこの手足はそれに耐えられません。


 知識が足りない。

 私は完成形を体感しました。外部からの干渉があったとはいえ、私はそれを一度行使しているのです。

 しかし、私の知識ではあれがどういったものかを説明し切れません。あの時の感覚の名前を、何が起きたかを解き明かすことが出来ていません。


 思考が足りない。

 ミス=フィアレディーが私に『餞別』として贈って下さった以上、フィアレディーは『私なら使える』と判断したのでしょう。

 しかし、私は未だそれの原理にさえ到達していません。意図が読み切れていません。

 フィアレディーの過大評価?いいえ、あの方は優しくはありますが決して甘くはありません。評価は公明正大です。となれば、私が浅慮なのでしょう。

 何より、嗚呼、教授はこれの正体に、原理に、おそらく気付いています。

 私の行動の意味について聞くことがあっても、教授から干渉してくることはありません。

 教授の表情や反応から正答を導き出すというズルは出来ません。

 これは、『淑女の零』における課題の一つ、なのでしょう。



 根本から違っている。

 確かに、かの淑女の持ち味、というか凶悪無比な武器は膨大な魔力と馬鹿げた肉体強度だ。

 だが、それだけではない。力があるだけの考え無しなら私はとっくの昔にかの淑女を殺している。

 聡明だ。

 己の力の強大さを知った上でその力をどこまで合理的に無駄無く使えるかを考えている。

 だから、あの術式に至った。

 単純に使用する魔力を増やすだけ。

 自分の頑強さで無理矢理体を動かすだけ。

 魔力を爆発させるだけ。

 そんなものの使い手なら取るに足らない。

 そうではないから現状手出しが出来ないのだ。

 素人が手にした打製石器と達人の構える鍛造武器ほどの格の違いを埋めねばならない。

 そのためには先ず格の違いを正しく認識し、認めなければならない。


 にしても、かの淑女は一つだけ認識を改めるべきだ。

 あの馬鹿げた出力の持ち主に手本を見せられたら、その馬鹿げた技巧(・・・・・・)が見えないというのに。

 静かで小さくてもそれが甚大な嵐なら、人の目ではそれを災害としか認識できない。

 さぁ、嵐を越えていくんだ。そして嵐を己が物とするんだ。頑張れ、シェリー君。

 それが見えれば君はまた一つ、より良くなる。



 第一形態:制御と抑制

 第二形態:精神的強化と拡張性

 第三形態:???

 第三形態は微妙に決まっているようで決まっていません。現状第一形態の対になるかもしれないという程度にフワッと考えています。

 ただ、前にも言いましたが淑女は人外に変形することはありません。

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